高倉健という生き方

2014年11月23日放送 21:03 - 21:49 NHK総合
NHKスペシャル 高倉健という生き方

2011年、別番組の撮影班が高倉健の密着取材を行っていた。6年ぶりの映画撮影、彼は心から演じたいと思える作品だけに出演してきた。ある年齢になると残された時間を考え出すもので、人の命はどう努力しても限りがあると語った。
「幸福の黄色いハンカチ」などの作品に出演してきた高倉健は、華やかな芸能界と距離を置き、私生活を明かすことはなかった。しかし生まれ育った九州の炭鉱町を見た彼は、昔を思い出すように口を開く。まだ幼い頃に起きた戦争の記憶は彼の心に深く刻まれ、気性の激しい人達に揉まれて育ったという。
終戦後、上京した高倉健はその日暮らしをしていたが、食べるために映画会社のマネージャーの面接を受け、端正な容姿が評価され俳優への道を進む。24歳でいきなり主役に抜擢された彼は「電光空手打ち」に出演、しかし本音を言えば嫌でたまらなかったという。
デビュー当時の高倉健を良く知る映画監督・佐藤純彌さんは、同世代で名前で呼び合う仲だった。デビュー3年目で「森と湖のまつり」の主演に選ばれた高倉健は、怒りの表現に苦しむが、周囲の協力を得て結果的にリアルな感情表現を手にしたという。
俳優10年目を迎えた高倉健は、「日本侠客伝」の出演で自身のハマリ役に出会う。本来から気が短い彼は、激しい性格が主人公にハマったのだという。役作りのために過酷な筋力トレーニングにも取り組み続けていた。
撮影所の後輩・北大路欣也は、仕事については高倉健から厳しく教えられていた。彼は厳しいトレーニングを当時から付き合わされ、心身共にしごかれていたという。任侠映画のシリーズは高倉健を一気に人気スターへと押し上げ、1年に10本以上の映画に出演。毎日のように朝方まで行われる撮影に、彼は心をすり減らしていた。
プライベートでも親交の深かった小林稔侍は、当時の高倉健は失踪騒ぎまで起こしていたことを明かす。そして俳優となって21年目の45歳の時、高倉健は所属していた事務所を退職。それは看板俳優としての地位を手放すことでもあったが、彼は少しでも良い俳優になりたかったと語った。
その後「八甲田山」という映画に出演した高倉健は、3年に渡る雪山での撮影に挑戦。彼はこの映画に俳優人生を賭けて臨んでおり、出演者の多くが凍傷になったという。共演した北大路欣也は、壮絶な撮影に挑む高倉健のラストシーンを、今も覚えていると語った。
その後も高倉健は、「幸福の黄色いハンカチ」など様々な映画に出演。映画を通して、こういう生き方も悪くないということを、皆さんに見せたいのだという。懸命に生きている人を演じるには、自らも懸命に生きていなくてはならない。
映画のために多くの物を捨ててきた彼は、40歳で離婚してからは家庭的な暖かさも遠ざけ、独身を貫いてきた。小林稔侍はそんな彼の心の奥を垣間見たことがあるが、なんの言葉もかけることは出来なかったという。
高倉健が40年に渡り、毎日のように通っていたのが都内にある理髪店。髪を切らない時も店主と会話をして過ごしてきた。そして2011年秋、彼の映画の撮影は佳境を迎える。クライマックスである妻の遺骨を海に撒くシーンが近付いていた。
撮影当日、高倉健による「あなたへ」のラストシーンの撮影が終了。生涯205本目の映画が終わり、この作品が彼の遺作となった。そしてクランクアップから4ヶ月後、取材班は彼に最後のインタビューを申し出る。50年以上の俳優人生について聞かれた高倉健は、色々な国の人との映画撮影をするのが夢だと語った。


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