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オープニング映像。
パーキンソン病を患い大好きだった旅行を諦めていた女性は海を見て泣き出した。この旅行を実現させた伊藤玲哉さん（34）はトラベルドクター。難病な終末期の患者が諦めていた旅行を医療の力で叶えている。残された時間と闘う彼の日々を追った。
医師の伊藤玲哉さんは2019年に「トラベルドクター」と名乗って本格的な活動を始めた。東京出身の伊藤は4代続く医者の家系。麻酔科医として大学病院に勤務し、将来は実家の病院の跡取りを期待されていた。医療の力で旅行を叶えるアイデアで起業を考えていた伊藤は2019年にビジネスプランを競うコンテストに出場して最優秀賞を獲得し、翌2020年にトラベルドクター株式会社を設立した。
2021年6月、伊藤は知り合いの医師からの依頼で保田正さん（75）の旅行の依頼を叶えることになった。保田は末期がんで足がむくみ、歩くことが困難だった。家族旅行といえばいつも海だったので、海に行きたいという。目的地は海と温泉が楽しめる熱海。伊藤は旅行前に下見をして、車いすが通れる幅や段差を確認した。下見には建築士や看護師も同行して専門的な視点でチェックする。万が一に備えて現地の医療機関にも協力を仰ぐ。保田が外出するのは1か月ぶりだった。熱海までは新幹線で移動し、リクエストした駅弁を食べた。旅行は2泊3日の日程で、2日目に家族と合流する。移動中に欠かせない酸素ボンベは伊藤が管理する。保田はずっと見たかった海を見て、砂浜を歩くことができた。部屋には露天風呂があり、介護士の力を借りて入浴した。そこへ娘の一家が到着。孫たちとの楽しい一時を過ごした。伊藤は心臓の弱い患者はお風呂に入れるのが不安だが、リスクがある中で本人がやりたいことをどう応援するかも大切な医療だと語った。保田が昼寝していると、思わぬトラブルが発生。酸素を濃縮する装置の一部が破損してしまった。外出用の機械で急場をしのいだ。伊藤は必要な部品をすぐに手配し、販売会社の担当者が届けてくれた。旅行を終えて帰宅した保田はまた行きたいと語った。それから14日後に保田は亡くなったが、娘の彩さんは親孝行はできたのかなっていう感じはすると語った。
2021年10月に幕張メッセで医療や介護の企業が集まる展示会が開かれ、トラベルドクターが初めて出展した。これまでの実績をアピールし、介護関係者が関心を示した。代表の伊藤玲哉さんは介護施設との業務提携を目指すことにした。
2022年2月、伊藤は300万円で中古の福祉車両を購入した。伊藤にとって人生で初めて購入する車だった。依頼をたくさん受けたいと思う一方で、経営は苦しく、赤字が月に200万円も出ている状況だった。翌3月に伊藤は介護付き有料老人ホームを運営する会社を訪れ、考えている旅行プランをプレゼンした。
会社をビジネスとして軌道に乗せようとする一方で、これまで通り寄付で賄う旅行も実現している。5月に名古屋を訪れた。諸熊英伸さん（62）は3年前に咽頭がんを発症した。仕事の都合で移住して一人暮らしを続けてきた。新薬での治療を進めていたが、効果が得られなくなってきたという。がんになる前はプロカメラマンだった諸熊は大自然の中で写真を撮りたいと希望した。諸熊には関東に離れて暮らす子どもたちがいる。一緒に旅行できるのが楽しみだったが、口に出すのは恥ずかしい様子だった。旅先に選んだのは長野・阿智村。交通の便の良さと協力してくれる旅館が見つかったことから伊藤がこの場所を選んだ。伊藤は旅行前日に福祉車両で下見に訪れたが、諸熊は転倒して入院してしまった。その日のうちに名古屋へ向かって、対応した訪問看護師と話し合った。伊藤はあと1日早ければと後悔をにじませた。それから25日後に諸熊は旅行に行くことなく病室で亡くなった。
東京を拠点にしているトラベルドクターは地方からの依頼にどう対応するかが課題だという。代表の伊藤さんは東京以外にも拠点を増やすことを決意し、クラウドファンディングで900万円の寄付を募ることにした。伊藤さんがお世話になっている介護タクシーの運転手・木原さんが125万円を寄付してくれて寄付が成立し、1000万円以上が集まった。
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今年3月、トラベルドクターの車は東京・上野公園にあった。業務提携した介護施設に暮らす人たちの日帰りお花見旅行を実現していた。代表の伊藤さんはやりたい事が当たり前にできるようにしたいと語った。
「NNNドキュメント」の次週予告。