高齢化で亡くなる人が増え、火葬待ちが問題になる中、遺体に防腐処理を施すエンバーミングの利用が広がっている。東京都の男性は去年、50年以上連れ添った妻を亡くした。男性がエンバーミングを依頼したのは、火葬の予約が取りづらいと聞いたこと。そして、人に会う時は身だしなみを大切にするという妻の信条を尊重したかったからだった。施術を受けた妻の顔は微笑んでいるようにも見え、男性は「元気な時に近い姿で見送ってもらい、本人も本望だったと思う」と話していた。エンバーミングを具体的にどう行うかというと、体の一部を切開して血管から肌の血色を良くする色素などを含んだ防腐剤を注入する。これで最大50日間ほど、生前に近い状態を保つことができるということで、国内の利用者はここ10年間で2.5倍に増え、おととし1年間で8万人が施術を受けた。技術者の男性は、「できるだけ傷を少なく目立たなくするよう心がけている。遺族の要望に従い、自分でも良いと思える仕上がりを目指している」と話している。ただ、遺族の中には戸惑いの声もあるよう。90代の女性が夏場に亡くなったケースでは、火葬待ちは8日間、葬儀会社から「保冷庫から出すたびに遺体が傷む恐れがある」と言われ、遺族はエンバーミングを選択。ただ、施術を受けた女性の表情に自然さが失われているように感じ、義理の娘は違和感を覚えたという。エンバーミングをめぐっては消費者トラブルも報告されていて、NHKの取材では「施術後の遺体に触れるには追加料金が必要と言われたが、不当な請求だった」という声が寄せられている。遺体の保全に詳しい北里大学医学部の武藤剛講師は、「業界団体に加盟しないエンバーミングを行う事業者が出てきた場合、消費者トラブルの温床になるおそれがある。行政が公的な資格や認証制度を設けるなど、医療者に準じた専門的な知識を身に付けた技術者が、処置にあたるべき」としている。
