プロフェッショナル イチロー スペシャル 知られざる闘いの記録
2007年シーズン終盤、イチローは激しい首位打者争いのさなかにいた。デトロイトのマグリオ・オルドニェスが3割5分を超え打率トップに立っていた。9月7日、わずか1厘差で追うイチローは直接対決を迎えたが、イメージ通りに身体が動かず差を広げられた。重圧がイチローの技術を微妙に狂わせていた。3日後、シアトルに戻ったイチローは一気に調子を上げ始めた。イチローは掴みかけている“目に見えない何か”について「普通に打てると思った球を打ちにいけばヒットが出る」と話した。イチローは人並み外れた技術と反射神経を持つがゆえに悪球にも反応してしまう。自分を抑えてストライクだけを打つ、その感覚を掴もうとしていた。9月19日、イチローはついに1厘差で打率首位に立った。9月20日、アナハイムでの遠征。マウンドには苦手とするシールズ投手。空振りを誘うボール球、審判にバットが回ったと判定されたイチローはこれまでにない猛抗議を行った。この日、イチローはオルドニェスに首位打者を明け渡した。
シーズン最後のオフの日、イチローは何かを確かめるようにバットを振っていた。「首位打者をとる」と言い切ったイチローは自ら重圧の中に飛び込もうとしていた。首位打者争いは稀に見るハイレベルな闘いに突入。イチローは固め打ちで3割5分をキープ。しかし、オルドニェスはその上を行き打率3割5分9厘まで上げた。イチローの勝利を信じて大勢のファンが連日セーフコ フィールドに詰めかけた。オルドニェスは打率を3割6分に上げ、マスコミはイチローの首位打者は絶望的になったと報じたが、イチローはまだ諦めていなかった。もう後がない161試合目、イチローはいつものように球場に入った。第三打席で凡退となりイチローの首位打者争いは終わった。次の回、守備位置に向かったイチローの目には涙が浮かんでいた。