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日本経済新聞・柳瀬和央が解説。きょうのテーマは「高額医療が問う国民の選択」。今国会では高額医療の患者負担額に上限を設ける高額療養費制度に関する政府の見直し案が提出されたが紛糾し予算案も修正。柳瀬氏は「上限引き上げは今国会では見送り、凍結となった。政府が見直し案を提示した背景にある医療費の急増という問題にどう対処するのかという課題は残ったまま。今後の日本の医療の在り方をどうするかという難しい問いを投げかける」。どうすれば高額療養費制度を守れるのか?柳瀬氏は「高齢者が増えると負担が増える。医療はもう1つアクセルがある。それが高額化。医療技術の進歩で従来は治せなかった病気やケガが治せるようになり、入院期間が短くなり苦痛がやわらいだりしている。新しい治療法や医薬品を使用する場合、多くの費用がかかる場合がある。胃がん手術の場合は開腹手術だったが腹腔鏡手術となった。今は2018年手術支援ロボット、ダヴィンチを使った手術が保険適用。正確、精密手術で合併症や再手術のリスクは低下。2022年度には診療報酬が引き上げられた。胃の部分切除で73万5900円と腹腔鏡手術に比べ9万4700円高くなった。健康保険組合連合会によると1カ月の医療費が1000万円以上かかった例が2023年度2100件を超え5年で3倍となっている。開発製造コストがかかるバイオ医薬品が新薬の中心。1億6708万円という高額な遺伝子治療薬など画期的だが高額な薬が保険適用されている。2022年度の国民医療費は約46.7兆円と1.7兆円増加。高齢者人口の増加率を大きく上回った水準。(日本経済新聞9面3月29日付)
医療の進歩はありがたいが増える費用をどうまかなうか。柳瀬氏は「外来診療の場合、技術進歩で医療費が増えると患者の負担も増える構図。入院医療の場合は高額療養費制度があるため患者負担に上限がある。そのことで技術進歩の対価は医療保険がマル抱えする。石破政権は高額療養費の上限を上げることで技術進歩の恩恵を受ける入院患者に応分の負担を求めようとしたが患者団体と野党の強い反対を受けて見送りとなった。高額療養費に手をつけず保険料でまかなう選択肢もあるが、この場合は保険料は大幅増加。医療保険料の総額は22.1兆円だったが24年度には24.4兆円ほど増えている。政府は2040年になると35兆から37兆円程度が必要と推計している。足元の高額化の加速を反映していないためさらに増える可能性がある。手術など大きなリスクへの安全網を守るために小さなリスクは自分で対応。日本維新の会が主張する花粉症治療薬や湿布など市販薬に類似品がある薬を保険から外す。高齢者の窓口負担を3割にする案もある。費用対効果が小さい薬や治療法は保険適用しない。安全性が確認された薬や治療法は保険適用しているが費用の割に高価が限定的という薬について適用を見送ったり患者負担の割合を引き上げる考え方。この場合、保険診療でカバーされる治療法の選択肢が狭まる。医療体制そのものを見直す。患者が自由に好きな医療機関を利用できるフリーアクセスは日本の医療の特徴。はしご受診や重複検査など無駄を生みやすい。高齢者に限り主治医の登録制を導入して救急の場合をのぞき初期診療の医療機関を限定すれば医療の効率性は高まる」などと述べた。(日本経済新聞9面3月29日付)