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別府の片隅に、ちょっと変わった“貸間”という宿が立ち並ぶという地域がある。宿泊代は格安、かしこまった接客は一切なしの宿だが、その不思議な魅力が人々を引き付けている。どんな思いで貸間に泊まっていくのだろう。3日間、訪れる人の声に耳を傾けた。
観光客で賑わう別府の中心地から歩くこと5分。少し人通りが落ち着いた界隈の、10軒ほどの貸間が集まる場所が今回の舞台。まず出会ったのは広島から来たという夫婦。妻が病気で、湯治目的で来たという。お部屋まで同行させてもらった。六畳一間のシンプルなお部屋。温泉付きで一泊4,400円。荷物から冷凍の肉まんを取り出し、地獄釜で蒸した。ホカホカの肉まんができた。別の貸間に向かった。出迎えてくれる人が何人かいたが、聞いてみると全員お客さんだった。彼らは福岡の柳川から来た7人組で、小学校の同級生だという。年に1回、ここで同窓会を開いているのだという。歌を歌うなど、自由にくつろいでいた。貸間の歴史は古く、大正時代には湯治客が訪れていたという。孫を連れてきた常連の農家の夫婦がいた。農業が暇な時、年に4回ほど訪れているという。一人で来ている男性がいた。旅人をしていて、これまで77カ国を巡ってきた。日本中も旅したが、すっかり貸間がお気に入りとなったという。貸間は最盛期には60軒以上あったが、時代とともに減り続けている。夕食時、地獄釜の周りが賑やかになってきた。食材を蒸す時間の目安が看板に表示してある。追加料金を払えば食事が出る貸間もある。3年近く住んでいるという99歳の男性がいた。別府は亡くなった奥さんが大好きだった場所。当初は1ヶ月のつもりだったが、ついつい長逗留してしまった。老後を過ごすには快適な場所だという。地獄釜で食材を蒸していた男性3人組がお風呂に向かっていた。3人は中学の同級生。本当は去年旅行する予定だったが、1人が心筋梗塞で倒れてしまったため、延期となった。無事回復し、幸せを感じている。
撮影2日目。きのう出会った99歳のおじいさんが、9時半から外出した。神経痛によく効くと評判の公衆浴場に向かった。近所にはこうした温泉がたくさんあり、それを巡るのも貸間に泊まる醍醐味だという。あと1ヶ月で100歳になる男性は、人生の最終盤、貸間で心穏やかな日々を過ごしている。夕方、きのう出会った夫婦がお風呂に向かっていた。病気を治してくれる薬師如来に見守られながらの入浴。妊娠中の女性が泊まりに来ていた。出産を前に高校からの親友と2人旅をしているのだという。定年後、妻を置いてバイク1人旅をしている男性がいた。家族のLINEグループで日記を投稿しているという。夜、地獄釜で、きのう出会った3人組の男性が、バイク1人旅の男性を部屋飲みに誘った。
撮影3日目。湯治に来た夫婦は帰宅の準備をしていた。特別ではないが、かけがえのない日常を刻んでいく。夕方過ぎ、小さい子どもを連れた家族がやってきた。徒歩5分の近所に住んでいるが、プロポーズの場所が貸間であるなど、貸間には特別な思いを持っている。もともとは大阪に住んでいたが、この土地が気に入り移住したという。いつでも本当の自分に帰れる場所。
撮影4日目。大阪から母親を連れてきた女性がいた。父親が亡くなり孤独な母に、都会にはない交流をして元気になってもらおうという思いがあった。99歳の男性は、この日も日課の湯めぐりをしていた。きょうもいいお湯だという。
「ドキュメント72時間」の次回予告。