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サカナクションが12年ぶりに紅白歌合戦に出場する。ボーカルの山口一郎はうつ病を抱えてから初めて完成させた「怪獣」はバンド結成以来、最大のヒットとなった。うつ病と生きる日々を2年間に渡って取材したが、今回、追加取材を加えた。
24年9月30日、NHKのスタジオでサカナクションの新曲「怪獣」の演奏の映像収録が行われた。5月放送の「NHKスペシャル」では、山口一郎がうつ病と生きる日々、サカナクションの2年ぶりの全国ツアーに至るまでを放送した。ただ、オンエア後も山口の体調不良は続いていた。日本では15人にひとりがうつ病を抱えているとされる。山口は2週間に1度、精神科医へ通院を続け、医師は「うつ状態が完全になるなることはない」と診断している。うつ病では気分の激しい落ち込み、異常な倦怠感、関節の痛みなどがあらわれる。山口の場合、主治医からの許可がおり、2年ぶりとなるサカナクションの全国ツアーに向けて始動した。自宅からのネット配信も行い、ファンからのリクエストに応えて歌唱を披露。だが、8曲を終えたところで強い倦怠感に襲われ、中断を余儀なくされた。24年3月、メンバーがリハーサルを行うなか、山口がいっこうに姿を見せない。自宅のベッドから起き上がれず、電話にも出られなかった。
山口は北海道・小樽出身で、16歳の時にバンドを結成。曲は好評だったが、ステージ上での山口が無愛想だと人気は今ひとつだったという。バンドを解散した翌年の2005年、サカナクションを結成。大手レコード会社の目にとまり、2年後に東京へ進出する。元バンドメンバーの原康之さんは山口の変貌ぶりに驚いたという。山口らメンバーは寝食を忘れて楽曲制作にいそしみ、知名度アップのために山口はバンドの顔を精力的に担った。2013年、代表曲「ミュージック」をひっさげ、紅白歌合戦に初出場した。ベースの草刈愛美、岩寺基晴は子育てをしながら活動を続ける。山口一郎にとって音楽は仕事ではなく、「ライトな言い方をすると趣味、重い言い方をすると稚拙ですが人生になる」と語る。
24年3月、サカナクションの全国ツアーが近づくなか、山口一郎は姿を見せない。映像演出の担当スタッフは「オープニング曲だけでも演奏時間を確定させて欲しい」と要望するも、作業は遅滞した。4月1日、山口を欠くなかで実戦形式のリハーサルがスタート。2020年、コロナパンデミックが世界で猛威を振るった。当時、山口はライブ休止で仕事を失った業界の仲間を救おうと、孤軍奮闘していた。同年10月、山口は原因不明の群発頭痛をSNSで告白している。22年5月、サカナクションのデビュー15周年を記念するオンラインライブが催された。山口は張り詰めた心情を吐露し、「ライブが終わった直後から気力が湧かなくなった」、「体を無理やり起こしてももう動けなくなっちゃう」と回想した。医師からはうつ病と診断され、休養を勧められた。全国講演を控えていて、山口は「少し休めばできる」と言い張るも、所属事務所の野村社長が中止を決断。
元バンドメンバーの原さんは山口を献身的にサポートし、高校時代の話題に花を咲かせた。うつ病から1年が経過した頃、山口は全国10カ所をまわるソロツアーを実施。小樽公演でスタッフを感激させ、大勢のファンの姿を見て、山口は「そんなに背負わなくていい、ここからスタートでいいじゃん」と思えたという。24年4月、メンバーが山口は来ると予感したとおり、山口がスタジオに姿を見せた。リハーサルも進み、4月20日、全国ツアーが開幕。チケットは全公演ほぼソールドアウトしていた。
全国ツアーの成功から2か月、山口は夏の野外フェスにも出演し、YOUTUBEでは長時間にわたってトークしていた。体調は捗々しくないなか、山口は新曲「怪獣」を制作。10月5日にスタートするアニメで使われる前半部分の歌詞、基本的なメロディーラインは完成していたが、9月に入っても後半部分などは未完成。山口は自宅に籠もって歌詞と格闘するなか、メンバーはこまめに連絡をとっていた。アレンジ作業は全員で進めたが、歌詞後半は締切である9月23日を過ぎてしまった。アニメの初回放送にあわせてリリースが予定されていたが、延期を余儀なくされた。ここに来て山口にうつ病の症状が強く出始め、集中力が持続できずにいた。メンバーたちは歌詞が完成する、未完成の場合に備え、リハーサルを進めた。9月30日、NHKのスタジオで「怪獣」の映像収録が行われることになった。山口はメンバーに対して、歌詞づくりが完成しなかったと謝罪した。岩寺は「一番ダメージを受けているのは一郎だと思うので、そこを責める意味もない」と述懐。収録は完成している前半部分のみとなった。
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サカナクションが「怪獣」を披露した。
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25年1月に入っても「怪獣」の歌詞は完成に至っていなかった。一方、1月後半から全国ツアーが始まる。初日の前日、完成を迎えた。山口はアニメと自分たちのストーリーをどう混ぜ合わせるか苦心したという。「怪獣」の再生回数は累計3.2億回を記録し、初めてチャート1位を獲得した。サカナクションは12年ぶり、2回目の紅白にも出場することが決定。山口は「同じ病気で苦しんでいる人たちに対して、音楽で返していけたら」などとコメント。12月16日、紅白に向けたリハーサルが行われるなか、山口は新曲の歌詞づくりに没頭。一人で抱えてきた重荷を仲間と分け合うことの大切さを実感し、”うつ”と向き合いつつあった。
エンディング映像。
