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上皇后美智子さまは「歌集 ゆふすげ」を発売された。昭和43年から平成30年までに詠まれた未発表の歌がおさめられている。檀ふみは16年前、御所に招かれた際、上皇さまからテニスの最中に美智子さまは歌を思案していると明かされたという。上皇后美智子さまの歌の数々からこころの旅路をたどる。
宮内庁御用掛として皇室の方々に歌の指導を行う永田和宏氏は上皇后美智子さまを歌人として高く評価してきた。美智子さまが発表された歌には上皇さまを支え、いたわられる気持ちが溢れている。平成15年、上皇さまは前立腺がんの手術を受けられた。お住まいに戻られた時の歌は新歌集におさめられていて、永田氏は「母親のような仕草」、「相手を想う恋の歌でもあると思う」と話す。昭和41年、鳥取県で上皇さま、美智子さまと懇談された10人の若者がいた。4人はこの世を去ったが、今も年に1度は顔をあわせている。
上皇さま、上皇后美智子さまは沖縄に11度、訪問されている。昭和50年、ハンセン病療養所の訪問を熱望されていて、園内に咲くゆうなを歌に詠まれた。1日で散ってしまうも、翌日には次の花を咲かせるたくましさを備えている。99歳の新城則子さんは1人1人の手をとって話に耳を傾ける姿が忘れられないという。2年後、ハンセン病を正しく理解する集いが都内で催され、愛楽園の人々も出席。ゆうなを皇室に献上すると、新城さんは美智子さまから感謝の言葉をかけられたという。平成16年、両陛下は宮古南静園を訪問され、美智子さまは園の人によって飾られた蕾のゆうなを歌に詠まれた。
美智子さまは平成10年の講演で、子供時代の読書の思い出について語られた。遡ること5年前、一部メディアによる事実とは異なる報道に端を発し、体調を崩された。声をうしないながらも公務を再開され、ピアニストの舘野泉氏とも交流。舘野氏はお住まいに招かれ、シベリウスを演奏すると、美智子さまは筆談で「私も弾いていいですか」と尋ねられた。舘野氏は「心から音楽を愛していることがわかる演奏だった」と振り返る。数日後、美智子さまは囁くような声で話を始められたという。
熊野那智神社で宮司を務める井上幸太郎氏は東日本大震災の際、消防団の団員として捜索活動にあたるなか、信仰が揺らいだという。そんな時、美智子さまが詠まれた歌に背中を押された。俳優の檀ふみはテレビで和歌を朗読したことをきっかけにお住まいに招待された。美智子さまは「不安なことは詠めない。どうしても希望を入れてしまう」と仰られたという。
美智子さまは北朝鮮から帰国した拉致被害者2名に会うと題した歌を新歌集におさめられた。平成30年、皇后として最後の誕生日の際にも拉致問題に言及されている。また、上皇さまとともに太平洋戦争の激戦地にも足を運ばれ、鎮魂と祈りを捧げられた。92歳の佐崎美加子さんは4歳で北海道からパラオに渡り、13歳のときに引き揚げてきた。上皇さま、美智子さまと歓談したことがあり、涙が禁じ得なかったという。サイパン島では1万人を超える民間人が犠牲となり、断崖絶壁から投身した人々への思いを馳せた美智子さまの歌がある。
新歌集には病に伏せる母親の見舞いに行けず、美智子さまが容態を確かめようと何度も電話で問われた歌がおさめられている。作家で評論家の保阪正康氏は上皇ご夫妻と交流があり、美智子さまから「知識、人との付き合い方、日常生活の振る舞い方などを教えてくれた母親を抜くことが1つの願望でした。結局は身長すら抜けませんでした」と言われたという。昭和63年、美智子さまの母である正田富美子さんは78歳で死去。美智子さまの亡母への思いを馳せた歌に心を揺さぶられた1人が横田早紀江さん。北朝鮮に拉致された娘、めぐみさんの帰りを今も待ち続けている。永田和宏氏曰く、未発表の歌がおさめられた美智子さまの歌集を読むと、我々と同じ驚き、喜び、悲しみをしておられることを知り、地続きな1人の人間として美智子さまを感じることができるという。
エンディング映像。