沖縄のサンゴの白化の被害が大きかった場所のひとつ、恩納村。去年8月に撮影した水深3~5mほどの浅い海域の映像が流れた。このときサンゴは白化していたが弱りながらも生きていた。この海を長年ガイドする大原拓さんは今、サンゴの状態はどうなっているのか海にもぐって確かめることにした。先月12日、目の前に広がっていたのは藻が付着し色を失ったサンゴ。「ミドリイシ」は水深の浅い場所に多く生息し、沖縄でも代表的なサンゴ。骨格だけを残し完全に死んでしまっている。サンゴの枝の間に見えるオレンジ色のものや、表面に付着した羽毛のように見えるのは「藻」だ。今後、藻が成長し海底が覆われると新たに生まれたサンゴが定着する場所がなくなる。そのためサンゴ礁が再生するのに時間がかかってしまうと考えられている。骨格が残っている間は小さな魚が住んでいるが、いずれ死んだサンゴは崩れ、砂と化す。大原さんは「みなさんは白化って白くなるんだっていう認識なのかと思うが、そのあとどうなるか。寂しい景色、廃墟みたいな。サンゴの周りにまだきれいな青い魚もいたりしてこれもまだきれいなのかなと感じるかもしれないが、生きたサンゴを見てきた人にとってはこれは完全に死んだ海で、ここにいる魚の数もぜんぜん違う。だからとても悲しい景色ではある。」などと話す。他の場所のサンゴの状態はどうなっているのか。沖合の比較的潮の流れのある場所に向かった。こちらでも水深の浅いところは死んだサンゴの姿が目立つ。しかし水深10mまで行くと藻に覆われていない生きたサンゴを見つけた。太陽の光が届きにくく浅いところと比べて水温が低いこの場所では白化を免れ生き延びていた。例年通り産卵は行われるのか。沖縄近海に生息するサンゴの産卵が行われるのは初夏の満月のころ。より多くの子孫を残すため潮の動きが大きい「大潮」のときに行われると考えられている。夜の海では夜行性の生き物たちが動き出す。セミエビの仲間はサンゴがなくなると隠れ家を失ってしまう。比較的高い水温にも強いとされる「サザナミサンゴ」の一種が産卵をはじめた。直径1ミリほどのカプセルを放出する。白化の被害が大きかった「ミドリイシ」の産卵はいつなのか。南側に10キロ離れた場所で産卵の兆候を探す。夜10時半、ミドリイシの産卵を見つけた。ピンク色の小さなカプセルは卵と精子が一緒に入った「バンドル」だ。海の中に無数の命が放たれる。その数は数万にも及ぶ。一つの群体が産卵を行うのは年に1度だけ。わずか数十分間の特別な光景だ。やがて海面はピンク色に染まり、漂いながら受精する。大規模な白化から1年、次の世代につなぐ新たな生命が生まれる瞬間だ。サンゴは成長の早い種類では最大で年間10cmほど成長するが、サンゴ礁が元の姿を取り戻すには何十年もの時間がかかる。