大阪・岸和田市の「山直ホーム」は重度の知的障害がある人が暮らす入所施設。定員は40人。地元の社会福祉法人の熱心な運動で1997年に開設された。国の福祉サービスとして44人の職員が支えている。知的障害のほかに複数の障害を抱える人もいて、テーブルを叩いたり、大きな声を出したり、壁を剥がしてしまう人もいる。施設長の叶原さんは「障害があるゆえに抱えている不安や緊張、恐怖を取り除くことが大事。親御さんの介護疲れを少しでも取りたい」と語った。40のベッドは満床で123人の待機者がいるため、ショートステイ10床を設けている。ショートステイは通常1泊~数日程度の利用だが、ここでは半年以上の滞在者が4人いる。国本武さん(51)は母親(79)と二人で暮らしていたが、母が心臓の病に倒れたため、ショートステイで1年2ヵ月滞在している。こだわりが強く、昼も夜も玄関で過ごしている。電話インタビューに応じてくれた母親は「あの子を置いて(病院に)行けない」と語った。ショートステイの長期滞在はやむを得ない場合に自治体が認めている。母親は武さんの住まいを探しているが見つからない。Kさん(34)の滞在は3年3ヵ月。首には自傷行為の痕が残る。次の予定が待てない時、不安になった時に自分を傷つけたり、物を叩いたり激しい行動に出る。以前は母親が付きっきりで支えていたが、力尽きてしまい、福祉関係者を通じて相談があった。母親は「子どもと何度も死のうかと思いました」と語っていたという。山直ホームは何とか救いたいとの思いからショートステイで受け入れたが、それから3年以上経っても受け入れ先が見つからない。去年5月、入所施設の男性が死亡したことから、新たに1人を受け入れることになった。123人の待機者からたった1人を選ぶ職員会議が開かれた。待機者リストには障害の重さや家族の事情などが記載されていた。名前が挙がったのは国本さんやKさんなどショートステイの長期滞在者4人。悩み抜いた末、家族がいないTさん(46歳・女性)に決まった。