かつてない大修理が始まろうとしていた。良質な革で仕立てられた女性もののブーツ。余命宣告を受けた母親が大事にしていたもので、修理して娘さんに贈りたいという依頼。しかし娘さんの方が足のサイズが小さく、2.5センチ靴を縮小させなければならないのが難しいところ。分解した革を23センチの木型に合わせて仮どめし、娘さんに試着してもらった。村上は会話の中で、娘さんが履き心地に不満を感じていることを見抜き、詳細を聞き出した。長く履いてもらえるよう、ギリギリを突き詰めて革を裁断した。革に針を入れ、靴を繕う。同じ針穴を通すことで、なるべく母親が履いてきた証しを消さないようにした。引き渡しの日を迎えた。娘さんの足にぴったり合い、問題だったたわみもなくなっていた。母親も「いい感じ、かわいくなった」など仕上がりに満足げだった。5日後、母親は静かに息を引き取った。村上は「間に合ってよかった」と安堵の笑みを浮かべた。村上にとってプロフェッショナルとは「心が折れかけても、また前を向いて生き残るための手段を考え続けられる人」。