今回紹介するのは作家・西村京太郎。西村さんは昭和5年、東京生まれ。ミステリーと戦記物が大好きな文学少年だった。14歳の時、エリート将校の養成機関、東京陸軍幼年学校に入学。入学からわずか4か月半で終戦を迎えた。工業学校卒業後、人事院に就職。役人に向いていないと悟り29歳の時に作家を志して退職。懸賞小説に何度応募しても落選。退職金を1年で使い果たし、トラック運転手や私立探偵などの職を転々とした。昭和38年、「歪んだ朝」で「オール讀物」推理小説新人賞を受賞し、本格的に作家デビューした。試行錯誤しながら書き上げた「D機関情報」は戦争末期の和平工作を描いた。自分の書きたいものではヒット作は出ない。出版社とのやりとりから新しい題材が浮かんだ。昭和53年に発表した「寝台特急殺人事件」はベストセラーになった。代表作の十津川警部シリーズは数多くテレビドラマ化され、人気を不動のものとした。ヒットの秘密は西村さんの緻密な取材にある。取材で特に大切にしているのは人間観察。トラベルミステリーという新しいジャンルを確立した西村さんが手掛けた作品は600以上にのぼる。戦後70年を迎えた頃から作品に戦争に関する記述が多く出てくるようになる。そこには戦争の記憶が薄れていくことへの危機感があった。86歳の時、西村さんは初めて自伝的ノンフィクション「十五歳の戦争」を書き上げた。作家・西村京太郎さん、ミステリーを通じて複雑な人間の有り様を描いた91年の生涯だった。西村さんは「自分の人生しか生きられない。いろんな人の人生を生きたいわけ。一生懸命愛したり、一生懸命殺したりする、どちらも人間」と語った。
