第60回文藝賞を受賞した小泉綾子の「無敵の犬の夜」は思春期の男子中学生の行き場のない衝動を描いた青春小説。執筆のきっかけについて小泉綾子は「孤狼の血 LEVEL2という映画を3回観て、その勢いで書いた。鉄砲玉のような少年がかっこよくて切なくて、そういう世界観を自分でも作れたらと思った。」などと話した。舞台は北九州。主人公の界は幼い頃に事故で指の一部を失うも、今まで必死に平気なふりをして生きてきた。そんな界はある日、友人と2人で女子生徒にセクハラをしていると噂の担任教師半田の車にイタズラを仕掛ける。だが、犯行の一部始終を半田に目撃されており、界だけが仕返しを受けることに。半田はクラスメイト全員の前で界の指のことを揶揄した。その日から不登校になった界は地元の不良とつるむようになる。そこで出会った橘は最新のファッションや音楽に詳しく、仲間からも一目置かれていた。さらに、界が学校で受けた仕打ちを話すと、担任の半田を叩きのめした。界はそんな橘に心酔していく。
橘と界の関係性を描く上で大切にしたことについて小泉綾子は「ちょっと悪い方がかっこよく見え、そういう人に惹かれて自分も変わっていく経験は自分の中にもあったのでその思い出をベースに書いた。」などと話した。ある日、橘は東京の人気ラッパーと女性を巡るトラブルを起こし、報復に怯えるようになる。界はそんな橘の姿を目の当たりにし、様々な感情が入り乱れる。界は「後ろから殴って倒す」と啖呵を切ると単身で東京へ乗り込んでいく。東京へ向かう場面について小泉綾子は「勢いや中学生特有の無計画さで、後先考えずに何かを掴みたいというエネルギーを否定せずに書くことを大切にした。」などと話した。