ゆっくりした手付きで白衣に着替えるおばあちゃんは箱石シツイさん、大正5年生まれの108歳。長年立ち仕事を続けてきた両足をいたわりながら居間の隣りにある仕事場へ。取り出したのは年季が入ったバリカンとハサミ。シツイさんはこの道90年の現役理容師。先月「ギネス世界記録」に「最高齢の理容師」として認定された。先月17日、「ギネス世界記録」に認定されてから初めてお客さんが来店した。シツイさんは1916年に栃木県で誕生。いまから89年前の19歳のときに理容師免許を取得した。その後、栃木で理容室を開業、昭和・平成・令和の時代を駆け抜けた功績から東京五輪の聖火ランナーを務めた。いまでは足の痛さを感じるそうだが、お客さんのために鏡の前に立ち続けている。長年使ってきたバリカンをしっかり握るとカット開始。大切にしているのがお客さんとの会話。いまは予約が入ったときや顔なじみの近所の方たちが訪れたときに店に立つという。開業から70年以上1人で店を切り盛りしてきたシツイさんだったが、息子からは「ボケも入ってきているので対応が難しい場面もある。横道にそれず一本道を通したことは立派だと母ながら思う」と話す。不思議なことにお客さんを相手にしている時は元気になっているという。そんなシツイさんに店に立ち続ける理由を聞くと「『箱石さんのように長生きしようと思うから見に来たんだよ』という方がいっぱいいる。男性も女性も」と話す。