木の下地に和紙を張り付ける一閑張という技法であらゆる道具を作る一閑張細工師の飛来一閑は、100年ほど前に張抜きの茶碗の技術を失った。和紙だけを幾重にも重ね合わせて形作られている張抜きの茶碗は、質素なものを尊ぶ茶の湯の精神を表している。張抜きは貧しさ故に生まれた唯一無二の技術だったが、当代はその技術を豊かな現代に復活させようとしていた。茶の席で出される菓子を載せる器を和紙を1枚ずつ張り重ねて作っている。張抜きで最も難しいのは貼り重ねた紙を型からあ抜き取る作業。高校生の時に父を失い技を受け継ぐことができなかった当代は、長男とともに張抜きを取り戻そうと模索してきた。今年ようやく納得のいく器ができあがった。
