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世界屈指の美術商アクセル・ヴェルヴォールトは今、日本の茶碗に心を奪われていた。茶の湯で使われる道具は、なぜか今海外に響いている。その道具は今から450年ほど前の戦乱の時代に生まれた。千利休は高価できらびやかな道具を捨て、職人に身近な土で茶碗を作らせ、竹林から切り出した竹で花を活ける器を作った。千家十職は利休の家から託された道具を今も作り続ける職人たち。閉ざされた職人たちの営みを取材した。
オープニング映像。
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安土桃山時代から400円以上茶碗を作ってきた樂家は、現在十六代を数える。今年の正月、息子に代を譲った樂直入が無言で土を込める手始め式という儀式を行った。この日だけ仙台の手仕事を見ることが許されている。樂家では1年に数碗しか世に出さず、ろくろを使わずに手捻りで作っている。初代長次郎が作った漆黒の茶碗は、色彩豊かな舶来品が重宝されていた当時革新的だった。樂家を繋いできた16人は、利休が長次郎の茶碗に託した問いと向き合ってきた。
利休は身近にある竹を道具の材料に選んだ。柄杓師・黒田正玄の家は、竹の道具一切を託されてきた。道具作りは竹探しから始まる。竹の命は短く、成長が止まると12~3年で朽ち果てる。朽ちていくものに美しさを見出す技を黒田家は研ぎ澄ませてきた。厳選した竹を炭で炙り、朽ちる元となる水を抜く。表面に染み出す油を肌にまとわせることで、竹は数百年をかけてゆっくり老いていくようになる。虫食いやひび割れを起こさなかった2~3割だけを道具にする。初代の花入「帰雁」は、400年経った今も竹が美しく老いを重ねている。
利休の月命日に、表千家、裏千家、武者小路千家の3つの千家は祈りを捧げた。利休の家を職人たちは道具を通じて支えてきた。職人の家には利休の形見が残されている。十三代中村宗哲の家には、茶を入れる棗など漆が塗られた道具を託されている。利休が好んだ道具の形を写して代々伝えてきた切り型には、道具が人の手に馴染むよう細かな寸法や曲線まで決められている。職人たちは家を絶やすことなく、同じ道具を同じ郷土でひたすらに作り続けてきた。
言葉を残さなかった利休が道具に託したことについて、当時日本を交易をしていたポルトガルに貴重な史料が残されていた。宣教師と来日し秀吉とも面会したジョアン・ロドリゲスは、茶の道具について「日本人はあらゆる人工的なもの、華麗なもの、見せかけ、偽善、装飾を大いに嫌う」「彼らの言葉で『軽薄』という」「節度を保ち自己の技量や力量を誇示することなく、有り余るよりもむしろ足りないほうを好む」と書き残している。
茶の道具は今、世界と響き合い始めている。大学で比較文化論を教えているネシム・コーエンは、月に1度友人を招いて茶会を開いている。茶の湯と出会って15年、自ら道具を作るようになった。漠然とした人生の不安から解放されるという。
現代アーティストのシアスター・ゲイツは、道具だけでなく作る職人の精神にも影響を受けていた。茶道具はそこに宿る知恵の深さ、職人技の深さ、哲学の深さ、そしてひとつの道を貫く覚悟の象徴、その姿勢は常に私が心の中で大切にしている信念だと話した。
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ベルギーの城に暮らす美術商アクセル・ヴェルヴォールトは、森の中に城とは対象的な質素な小屋を作った。茶の道具に込められた精神を自分なり解釈した空間にだった。私たちは自然から離れ過剰に整った世界に到達してしまった、すべてをコントロールしたいという人がいるがわびの精神は正反対だと話した。
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焼物師の十八代永樂善五郎は、4年前に代を継いだ。元々永樂家の生業は真っ黒な土風炉という焼物だったが、時代の変化の中で途絶えた。その当時幕末に会津藩の京焼で華やかな焼き物が流行り、華やかなものを作っていった。当代はそこから100年余途絶えた土風炉の技を復活させようとしていた。色を大きく左右する燻しの工程では、植物の葉などとともに窯で燻す。土の種類や燻す時間などを探るため、テストを重ねていた。
木の下地に和紙を張り付ける一閑張という技法であらゆる道具を作る一閑張細工師の飛来一閑は、100年ほど前に張抜きの茶碗の技術を失った。和紙だけを幾重にも重ね合わせて形作られている張抜きの茶碗は、質素なものを尊ぶ茶の湯の精神を表している。張抜きは貧しさ故に生まれた唯一無二の技術だったが、当代はその技術を豊かな現代に復活させようとしていた。茶の席で出される菓子を載せる器を和紙を1枚ずつ張り重ねて作っている。張抜きで最も難しいのは貼り重ねた紙を型からあ抜き取る作業。高校生の時に父を失い技を受け継ぐことができなかった当代は、長男とともに張抜きを取り戻そうと模索してきた。今年ようやく納得のいく器ができあがった。
途絶えた土風炉の技の復活に挑む十八代永樂善五郎は、燻し終えたものを見せてくれた。挑戦を始めて10年以上が経つが、黒い土風炉の復興には至っていない。いろんな技法をトライアンドエラーしながら身につけているのでものづくりの幅が広がっている、いくつになっても新しいものをやる続けるべきというものづくりの大事なところと話した。
茶道具を包み込む袋師の十三代土田半四郎は、長男が3年前から家業を手伝い始め、手仕事をデジタル技術の融合を模索している。表具師の十三代奥村吉兵衛は、、掛け軸も100年単位の消耗品なので次の人がやりやすいように受け継いでいく仕事だと話した。裏千家十五代家元の千宗左は、大量生産の中でお茶は対極的な世界、物質的な豊かさの対極にある心の豊かさを追い求める時代になってきていると話した。アマースト大学のサミュエル・モース教授は、あらゆるものの中に価値を見つける利休の教えは一人ひとりが置かれる環境の中で自分なりの価値を見いだすことにつながると話した。シアスター・ゲイツは、私たちの作るものの不完全さの中にこそ自然な美しさが宿っていると話した。
エンディング映像。
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