国際報道 辻’s ANGLE
アメリカ・ノートルダム大学のパトリック・デニーン教授は、ウォール・ストリート・ジャーナルに「トランプの世界をめぐって争うイデオロギーの思想的指導者たち」の1人として取り上げられたことがある人物。特にバンス副大統領が、デニーン教授の思想の影響を強く受けていると言われている。バンス副大統領はデニーン教授の著作にも書評を寄せ、「破壊されたものを再建できるポピュリスト政治のビジョンを提示している」と褒め称えた。きょうはトランプ政権を理解するために、アメリカで「New Right=新たな右派」と呼ばれる知識層の代表格ともされるデニーン教授の考え方と、どんな人物なのかを見ていく。
デニーン教授は「トランプ大統領は哲学的な人物ではない。彼自身の政策の全体をどう結びつけるか、説得力のある説明をできていない。ときに私が“代弁者”と見られているのかもしれない」などと語った。デニーン教授の考え方は「行き過ぎたリベラリズムで疲弊した人々が、それを押し戻そうとする流れが世界全体で起きている」というもの。リベラリズムは個人の自由を尊重し国境の壁をできるだけ低くし、人と物の流れを自由にしていく市場経済やグリーバリスムを進めてきた。その結果社会やコミュニティ、家族といった伝統的価値観が崩れているとする見方。2016年、イギリスの国民投票でブレグジットが決まり、同じ年にトランプ大統領が1期目の当選を果たした。その後ヨーロッパ各国でも右派が台頭し続け、反移民の動きが強まりポピュリズムの台頭とも言われた。いずれもこれまでのあり方に不満を持つ人々が声を上げたことが要因の1つと言われた。伝統的な価値観やコミュニティの再建だけではなく、経済的にもグローバルな自由主義を見直す必要があるとデニーン教授は主張している。
デニーン教授は「我々はリベラリズムの後に続く時代に、どんな建設的な取り組みが必要かを考えなければならない。国民のアイデンティティー強化、国の伝統、製造業の後押し、国内経済の促進などだ」などと述べた。デニーン教授はこれまでのリベラルな価値観のもとで進められてきた経済政策が曲がり角に来ているとし、「政治家たちは有権者の動向からそれを敏感に感じ取っている」という。その根拠の1つとしたのが、かつて自由貿易を推し進めてきた共和党。その共和党出身の大統領が、今はその正反対とも言える関税や保護貿易を打ち出している。デニーン教授は政治家は単純な経済合理性だけでなく、国民がそれをどう感じるかという観点も考慮に入れなければならないと指摘し、「これまでの政策の政治的な結果が混乱を招き、多くのアメリカ市民に不安をもたらした。自由市場のイデオロギーのより極端な解釈は、抑制される必要がある」などと語った。右派の台頭はアメリカだけではなく、イギリス、ドイツ、フランスでも勢いが増している。それを後押ししているのは従来の政策のもとで疲弊し喪失感を味わって来た人々の不満で、これが現実。デニーン教授の主張は目の前にある現実をどう理解するのかという点で、1つの視座を与えている。
