あなたの名前を刻みたい 〜阪神・淡路大震災 遺族の29年

2024年1月22日放送 0:26 - 1:09 NHK総合
NHKスペシャル (NHKスペシャル)

阪神・淡路大震災では6434人が犠牲となった。亡くなった人々の名前は慰霊と復興のモニュメントに刻まれているが、震災による死と認められていない被災者の遺族が名前を刻むようになった。田中しげみさん(59)は30歳の時、震災に遭遇し、5日後に父親を喪った。父親は末期がんを患って入院中で、田中さんは被災によるストレスが死期を早めたと考える。シングルマザーとして息子を育て上げた現在、長年抱えてきたモヤモヤを片付ける時と感じていた。
モニュメントの運営を担う堀内正美氏は震災後を生きる遺族たちを分け隔てることなく名前を刻めるようにしたいと尽力してきた。アンケート、電話で事情を聞き取り、遺族が震災の影響があると考えていれば、名前を刻んでいる。廣畑瑞保さん(63)は娘さんを出産後、娘さんはICUに運ばれた。阪神・淡路大震災が発生し、停電で人工呼吸器は一時的に動かなくなった。体調は急激に悪化し、38日後に娘さんはこの世を去った。瑞保さん、旦那さんは死後に初めて娘さんの体を抱きしめたという。震災から9年後、夫婦は娘さんの名前をモニュメントに刻み、確かにこの世に存在していたと証を残すことができた。震災後、慣れない避難所生活、過度のストレスから疲弊して亡くなった人、震災により予定されていた手術ができず、息を引き取った人らの名前もモニュメントに刻まれている。
田中しげみさんは末期がんを患って入院中だった父、猛氏のもとへ息子を連れて行くと、いつも笑顔で迎えてくれたという。震災がなければ、幼稚園の制服姿を見せてあげられたはずと考える。ただ、カルテに初めて目を通すと、病状は刻々と悪化し、田中さんらの前では気丈に振る舞っていたと推測された。阪神・淡路大震災では31万人を超える人々が避難所生活を余儀なくされるなど、多くの人が心身に深手を負った。堀内氏は「震災みたいなことがなければ元気だったはず、プレートをはった途端に皆さんは語りだす」などと語った。
井村姉妹の父、喜一氏は阪神・淡路大震災で妻の道代さんを亡くし、家も仕事も失った。7か月後に自死した。亡くなる2か月前に誕生日を迎えたが、手記には「生きたくもあり、生きたくもをなし」と記していた。喜一氏の故郷は小豆島で、震災後に家族を誘って旅行していた。2013年、喜一氏の名前は慰霊と復興のモニュメントに刻まれていて、姉妹は父の最後を少しずつ受け入れられるようになったという。田中しげみさんは23年12月17日、モニュメントに父の名前を刻み、「一区切りついたかな。たったの一区切りですけど」、「最後、弱みを見せずに頑張ってくれてありがとう。父に恥じないように生きたい」などと語った。今回、新たに9人の名前が加わった。


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