調査報道 新世紀 File4 オンラインカジノ 底知れぬ闇

2024年9月19日放送 1:59 - 2:45 NHK総合
NHKスペシャル 調査報道 新世紀 File4 オンラインカジノ 底知れぬ闇

2022年4月、取材班の元に「オンラインカジノって知ってる?調べてみてほしい」とメッセージが送られてきた。メッセージの送り主は田中紀子さん。長年に渡りギャンブル依存症の当事者や家族の支援に取り組んできた。かつて夫とともにギャンブル依存症に苦しみ回復した経験をもつ。ギャンブル依存症とはギャンブルを繰り返すことで脳に強い刺激が加わり機能に障害が起こる病気で、自分の意思ではギャンブルへの欲求を抑えられない精神疾患である。田中さんは「オンラインカジノ」について従来のギャンブルに比べ、のめり込むスピードが極めて速いと感じている。人生を破滅へと追い込む「オンラインカジノ」。サイトにはスマホ・タブレットから誰でもアクセス可能だが違法ギャンブル。クレジットカード・銀行振り込み・暗号資産など掛け金の決済もオンライン上で行う。大人から子どもまで誰もがスマホをもつ時代、一人ひとりが違法ギャンブルへの入口を常に手にしていると言っても過言ではない。日本国内のオンラインカジノの利用や運営に関わることには賭博罪として懲役・罰金などの罰則が規定されている。現在、オンラインカジノの詳細な実態は明らかになっていない。ある推計では日本の利用者は数百万人にのぼるとみられる。
2022年6月、40代男性・しゅんさんは大手企業の正社員として働いている。オンラインカジノで抱えた多額の借金の返済のため自宅マンションの売却を決めた。妻と2人の子どもの4人暮らし、家族旅行が楽しみだった。しゅんさんはこれまでの人生の中でギャンブルに対し過剰にのめり込んだことはなかった。それは暇つぶしのはずだった。きっかけは在宅勤務中の休憩時間。スマホを眺めていると「5000円入金すれば5000円キャッシュバック」とのオンラインカジノの広告が目に飛び込んできた。アクセスするとスポーツ賭博のサイトで、試しに予想したところ的中し少しのお金が手に入った。いつでもどこでもスマホ1つで利用できる気軽さから違法の認識のないままゲーム感覚で賭けていく。半年で6枚のクレジットカードを使い切り、消費者金融からも借金を始めた。何度も止めようとしたが止められず。
多くの人がオンラインカジノを始めるきっかけとなっているのはインターネット上の広告。オンラインカジノと検索すると違法ではないかのような誤った情報が溢れている。しかも人気YouTuberや誰もが知るスポーツ選手までもが広告塔となっている。違法なギャンブルへ誘導している関係者を探し出す作業は難航するも、ある男性へたどり着く。男性はオンラインカジノの利用方法や必勝法を解説するWebページを公開している。バナーをクリックするとカジノサイト登録ページへ誘導させ、登録させお金を使わせた場合は5%が男性へ入る。多いときには月に数百万円の収益をあげることもある。男性の証言によると日本国内にはオンラインカジノの広告を制作し拡散する業者が数多く存在する。広告を通じて新規利用者を獲得しているという。賭博罪にあたるオンラインカジノの利用だが男性は物怖じせず賭け始め、わずか2秒で4万ドル・日本円で600万円以上を獲得した。従来のギャンブルに比べ、結果が出るまでの時間が短く24時間いつでまで続けることができる。オンラインカジノにのめり込み家を売却したしゅんさんも魔力から抜け出せなくなったと語る。20年以上、しゅんさんに連れ添ってきた妻・りょうこさんはある日突然、夫の異変を知る。家族4人の生活費、子どものための貯金が全てオンラインカジノに注ぎ込まれていた。大切な婚約指輪もいつの間にか売られ負債は1500万円にのぼった。ギャンブル依存症と診断されたしゅんさん。田中さんの紹介で民間の支援グループに通うこととなった。思い出の詰まった自宅マンションに別れを告げたしゅんさんは二度とオンラインカジノをやらないとりょうこさんに誓っていた。
ギャンブル依存症は世界中で急増している。ギャンブル大国・イギリスではオンラインカジノを一定の規制の元で認めてきた。しかしオンラインカジノによるギャンブル依存症が社会問題となる。規制を強めるため法律の改正に踏み切ろうとしている。掛け金に上限を設けるなど具体的な規制内容に関する議論が始まっている。日本では取り締まりが強化されオンラインカジノの国内利用者に加え、海外サイトの運営に関わる者も検挙されている。一方、日本からのオンラインカジノへのアクセス数は増加している。背景にはオンラインカジノ特有の要因があると刑法の専門家は指摘する。海外に拠点が置かれ規制の網をくぐり抜けるオンラインカジノ。年間数兆円の掛け金が海外へ流出しているとの試算もある。オンラインカジノの広告の実情を明かす男性の証言によると彼らがいるのはマルタ共和国。オンラインカジノに関心を抱く人がマルタ共和国に集う。
マルタ共和国は地中海の宝石と呼ばれ古代遺跡や歴史的建造物を有する世界遺産の国。一方、外国人観光客を相手にするカジノビジネスでも知られる。マルタの法律では規制当局が発行するライセンスの取得を条件にEU圏内でのオンラインカジノが認められている。首都バレッタの中心部でマルタ共和国に住む日本人が交流会を実施しているという。この日の参加者は留学生や観光客など20~40代の男女10数人。参加者に対しオンラインカジノに関する仕事の情報提供を行っていた。日本では賭博罪にあたるが女性は違法行為はしていないとして説明を続けた。男性が就職を希望している企業の求人動画では日本人が出演し、ディーラーの採用条件は日本語が話せることだという。2日後、採用試験が行われた。面接は氏名・出身地・志望動機など簡単な質問など6分ほどで終了。オンラインカジノのディーラーをする女性によるとC社には日本人ディーラーだけが集められた専用のフロアが存在し、80人の日本人が24時間交代制で働いている。ディーラーたちは日本の利用者に向け映像を配信するカメラに向かい会話をしながら客の相手をする。女性の説明によるとC社はマルタ共和国で日本人を雇っているもののオンラインカジノを運営しているわけではなく、映像を依頼主である別の組織に提供しているにすぎないという。
依頼主と思われる組織で働く日本人女性にたどり着いた。かつて女性で働いていたD社はC社にディーラーの映像の提供を受け日本の利用者に向けて配信しているとみられる。女性は日本の利用者の本人確認などの業務に就いていた。RNG=ランダム・ナンバー・ジェネレーターは数字や結果をランダムに生成するシステム。D社が運営しているとみられるオンラインカジノでは耕平なゲームを保証するためRNGを採用しているという。しかし女性は実際には公平ではないと打ち明けた。D社に「日本人を対象にオンラインカジノを提供することについての違法性の認識」「公平なゲームを保障しているのは事実か」と見解を正すと回答を得られず。ギャンブル事業の運営企業元社員は「ランダムなギャンブルを避けている。正直にいって規制のない市場でしないはずないでしょう」と明かす。勝ち負けがコントロールされているとすればギャンブルとはいえない。借金や依存症に苦しむ人たちは何にのめり込んでいたことになるのか。
支援活動を続ける田中紀子さんの元に依存症に苦しむしゅんさんの妻・りょうこさんが助けを求めにきた。しゅんさんは自宅を売ったお金で再びオンラインカジノを始めていた。田中さんは別居を提案。しゅんさんには当面の生活費を渡すこととなった。後日、3人で集まり今後のことを話し合うこととなった。結果、しゅんさんは現れず。6日後、しゅんさんから連絡があり野宿していたという。支援グループに通うことで約4か月の間はオンラインカジノを止めることができていた。しかし始めると歯止めが効かない。日本ではギャンブル依存症の専門治療が可能な病院は限られる。田中さんの支援でビジネスホテルに宿泊することとなった。スマホの奥に待ち受けていたのは一時の楽しみではなく人生そのものを飲み込む巨大な闇だった。オンラインカジノの勝ち負け自体がコントロールされている偽るのギャンブルというのも浮かび上がる。


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