2024年8月31日放送 19:32 - 20:17 NHK総合

新プロジェクトX〜挑戦者たち〜
祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

出演者
有馬嘉男 森花子 石井浩司 松本全孝 
(オープニング)
祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

国宝 薬師寺 東塔は美しく凍れる音楽と称えられてきた。平穏な日々を願い無数の人々が訪れる祈りの塔。しかし15年前、東塔は危機に瀕してうた。部材は痛み腐り、シロアリに食い散らかされていた。創建以来初となる全解体修理が始まった。

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薬師寺 東塔
オープニング

オープニング映像。

オープニングトーク

今夜の舞台は奈良の薬師寺。天武天皇が皇后の病気になったときに人々を病から救う薬師如来をご本尊として建てた病気平癒の寺として知られている。薬師寺のほとんどの建物は戦国時代に焼失している。創建時から残るのは東塔のみ。東塔の木組みを元に、金堂、西塔、大講堂などと1つ1つ再建してきた。今度は東塔は崩壊の危機に瀕してしまった。物語は東塔の修理が始まる20年前に遡る。

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祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理
祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

1991年、薬師寺では失われた建物の再建の工事が行われていた。棟梁を務めるのは鬼を言われた宮大工・西岡常一。西岡は焼失した金堂や西塔を蘇らせていた。その現場に1人の新入りがやって来た。それが当時29歳の石井浩司だった。石井は岡山で工務店の家に生まれ、仕事よりも矢沢永吉と競馬を愛する自由気ままな男だった。薬師寺の再建工事を勉強してこいと送り込まれたが、半年もしたら帰ろうと考えていた。しかし西岡と出会い、自分の生き方では通用しないと直感した。西岡もとで動く職人はみな一流、西岡が復活させた古代の道具を使いこなす技と哲学をあわせもった集団だった。自分も一流になりたいと岡山に戻ることをやめ修行を続けた。それから10年、亡くなった西岡の仕事を引き継ぎ再建工事の中心を担うようになっていた。しかし「創建当時の工人の心になって仕事をしなさい」という西岡の言葉が心に引っかかっていた。石井はどうしても工人の心が知りたいと東塔の修理の開始を待ち続けた。2012年、ついに東塔の解体修理が始まることになった。国宝修理は1300年前の部材をなるべく残さないといけない。石井は1万3000もの部材1つ1つを確認し補修する役目を担った。部材は腐りボロボロ、屋根を支えていた部分は押しつぶされ歪んでいた。中でも最大の難関は心柱。心柱の頂点には釈迦の遺骨、仏舎利が収められるという。心柱の修理を任されたのが松本全孝だった。心柱は根本から腐りシロアリに食い散らかされ3メートルほどの空洞があった。

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スタジオトーク

西岡さんはどんな存在?と聞かれ石井浩司は「道しるべ。何か自分が壁にぶつかった時に残してくれた言葉とか、棟梁ならどうするかって」などと話した。工人の心を知りたい理由は?と聞かれ石井浩司は「心は大事。これを建てた大工の気持ちがわかればそれが答えだと思った」などと話した。

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祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

解体修理が始まって1年。薬師寺には連日、病気平癒や家族の健康を祈り写経をする人々が訪れていた。解体修理が始まって1年。薬師寺には連日病気平癒や家族の健康を祈り写経をする人々が訪れていた。石井は途方もない作業に取りかかっていた。解体した1万3000もの部材一つ一つに向き合う。そして腐りを取り除きそこに新たな木材をピタリとはめ込んで部材をよみがえらせていった。石井は工人の心の謎を解く手がかりを探したが一向に見つからなかった。仕事のない日、石井の楽しみは妻・幸代と出かけることだった。石井が屋根を支える部材を手にするとその切り口を見てハッとした。自分なら誰に見られても恥ずかしくないよう少しずつ削る部分。しかし古代の工人は心に迷いなく一振りで切り落としていた。

一方、信仰の要である心柱。修理のスペシャリスト松本は苦しんでいた。柱の修理は通常ある程度まで切り落とし根継ぎをして補強する。しかし松本にはどうしても心柱を切りたくない理由があった。奈良・吉野の山あいに生まれ15歳で大工の世界に入った松本。初めて修理したのは創建以来400年、地元の人々に親しまれてきた神社。松本が神社の門を修理すると図面より3ミリ高くなってしまった。高くなった部分を削って調整しようとした瞬間、「当初材は大事にしろ」と先輩のどなり声が飛んできた。それから30年。松本は祈りが込められた古い部材を生かす技を極めてきた。心柱修理の工法を考えること半年、松本は一つの答えにたどりついた。1300年前の心柱の長さを切らずに残す前代未聞の工法だったが専門家からは懸念の声が上がった。必ずやり遂げると断言した松本。大きな重圧がのしかかった。

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吉野町(奈良)
スタジオトーク

東塔の心柱の修理について松本全孝は「すごいプレッシャーだった。今までにしたことのない工法だったので。1300年もっているというその当時、建てた人の建て方が間違いではなかった。そして後世に残す。材があることで復元もできる」などと話した。東塔の部材について石井浩司は「大工のエゴがない」などと話した。

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薬師寺 東塔
祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

2015年、心柱の修理が始まった。心柱の直径は約90センチ。狭い中に入って作業をしなければならない。体重を10キロ減らすため、健康に良くないことを承知で夕食を取らず酒を一杯だけ煽って寝た。内部を削り修復すること1年、段を付けた木材を慎重に心柱にはめ込んでいった。2017年1月、心柱が建て直された。

しかし何台がまだ残っていた、心柱の頂上に取り付けられる銅製のシンボル「水煙」。X検査をすると数十か所に亀裂があることがわかった。新たに今と全く同じものを制作すると決まった。この仕事は高岡市の鋳物職人・梶原壽治に任せられた。ゆがみや錆が生じた今の状態を完全に再現せよという難題に梶原は頭を抱えた。梶原は15の会社の100人近い職人たちに協力を呼びかけた。2018年10月、鋳造の日。一発勝負、鋳型に銅が流し込まれ翌日新たな天人が姿を現した。

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高岡市(富山)

一方、工人の心を探していた石井に衝撃の知らせが届いていた。突然突きつけられた妻の重い病。石井は現実を受け入れられなかった。それでも石井は仕事を続けた。日中は修理を終えた部材を一つ一つ慎重に組み上げていく。帰宅すると家事をこなしながら妻、幸代の闘病を支えた。抗がん剤の副作用に苦しむ幸代をただ見守るしかなかった。そんな日々が続いたある日ふと心柱が目に入った。そして思った。1300年前病や天災の前に人々が無力さを突きつけられた時代。古代の工人たちも大切な誰かの平穏を願い、この塔を築いたのではないか。あの一振りの迷いなき仕事には、まっすぐな祈りが込められているのだと思った。「創建当時の工人の心になって仕事をしなさい」。西岡の教えの意味が分かった気がした。それから石井は部材を一つ一つ祈りを込めながら組み上げていった。2019年9月、ついに東塔が姿を現した。1万3000の部材のうち心柱を含め9割を生かすことができた。心柱を守り抜いた松本は職人としての信念を貫いた。現代の工人たちの力で祈りの塔が次の千年に引き継がれた。

スタジオトーク

東塔が復活。松本全孝は「心柱に関しては自分としてはパーフェクトだと思っている。バトンを受け取って次に渡すことができたと思ってる」などと話した。工人の心を西岡棟梁に伝えたらどんな言葉が返ってくると思いますか?と聞かれ石井浩司は「そうとも、違うともおっしゃらないような気がする。にこにこ笑って聞いてる気がする」などと話した。

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薬師寺 東塔
祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理

2023年4月、東塔修理の完成を祝う落慶法要が執り行われた。松本全孝は定年退職後、地元、奈良・吉野で工房を開き小さな寺社を修理している。石井浩司の妻、幸代さんは石井が東塔の修理をやり遂げたのを見届け、51年の生涯を終えた。葬儀後、寺から1通の封筒が届いた。幸代さんは石井に告げず1人、東塔修理のための写経をしていた。東塔には幸代さんを含め述べ10万を超える人々の写経が収められている。

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吉野町(奈良)落慶法要薬師寺 東塔
(エンディング)
エンディング

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