2023年11月12日放送 1:31 - 2:21 NHK総合

NHKスペシャル
調査報道・新世紀 File1 中国“経済失速”の真実

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オープニング

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調査報道 新世紀 File1 中国“経済失速”の真実

中国のSNS上では労働者が雇い主に賃金未払いなどを訴えるデモを行う動画が次々と投稿されている。しかしこれらが削除されるケースが相次いでおり、当局の意向によって検閲されているとみられる。番組では様々なデジタルデータを組み合わせることで見えなかった中国経済の実態を明らかにしていく。

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国内総生産広東省(中国)恒大集団江蘇省(中国)湖南省(中国)碧桂園控股
調査報道・新世紀 File1 中国“経済失速”の真実
中国経済を襲う”異変”

中国では先月国慶節を祝う連休を迎え、中国国営テレビは22億人が国内外を移動したと伝えゼロコロナ政策で落ち込んだ経済が回復していることを強調した。しかしアメリカの国境地帯ではアメリカに亡命しようとする中国人が押し寄せていた。去年に比べ10倍以上に増え、経済的な困窮から逃れようとする中国人もいた。ロサンゼルスでは彼らのコミュニティがすでにできていた。中国各地では大規模な建築工事が中断したまま廃墟となる現場が増えている。北京郊外で建設が進められていた商業施設は未完成のまま放置されていた。恒大グループが進めてきたプロジェクトで、恒大グループの負債総額は48兆円余にのぼっている。不動産とその関連産業の不況が今経済の失速を招き、長期低迷への警戒が高まっている。

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ゼロコロナ政策テキサス州(アメリカ)ロサンゼルス(アメリカ)中国中央電視台北京(中国)国慶節恒大集団
”不都合な事実”か?検証・労働者デモの実態

中国の国家統計局の統計データを調べると、若者の失業率の統計は過去最悪を記録した6月分までで公表を停止していた。さらに格差拡大の指標となる可処分所得の最上位と最下位層の公表は2012年で停止していた。15年ほど前には公表されていた統計データは約8万4000件あったが年を追うごとに減っていた。中国版SNSを調べると、会社の従業員が賃金未払いを訴える動画が見つかった。デモは様々な産業にまたがっており、これらの動画は中国全土から投稿されていた。動画は短時間のうちに削除されていた。労働者によるデモの投稿を分析しているNGO中国労工通訊ハン・ドンファン氏を取材した。ハン氏らは削除される前に動画を収集し、デモが起きた日時や会社の情報などを照合し事実だと確認できた投稿だけを抽出している。番組がハン氏からデータの提供を受け独自に投稿を分析した結果、ことし1月から9月までの間に少なくとも1148件のデモが起きていることが確認できた。賃金未払いを訴えるものは86%、そのほかは値上げや不当な解雇に補償金を求めるデモがあった。地図に落とし込むとほぼすべての省などに広がっていることがわかり、ここ数年は内陸側の地方でデモが急増していた。

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中華人民共和国国家統計局吉林省(中国)陝西省(中国)香港(中国)
多発する賃金未払い 現場で一体何が?

デモの数が最も増加している陝西省を取材した。西安では朝5時、農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者の人だかりができていた。西安で出会った男性・劉さんは農民工の代表として賃金未払い交渉を行ってきた。劉さんは公共インフラの開発プロジェクトに従事。去年仕事を終えたものの支払いを受け取っていないと訴えていた。約9700万円の契約だったが未払いは6700万円以上で、100人を超える農民工がそのあおりを受けてきた。 劉さんは現場担当者を見つけ賃金の支払いを求めると彼らも発注した企業から支払われていないと押し返された。 劉さんは発注元の企業と自ら交渉するため会社を訪れたが、警備員に阻まれ相手にしてもらうことはできなかった。

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西安(中国)
多発する賃金未払い その原因を探る

プロジェクトの発注元は地方融資平台と呼ばれる特殊な投資会社とわかった。銀行からの融資や債権の発行などで資金を集め公共インフラの開発を行っている地方政府傘下の投資会社で、西安のプロジェクトは融資平台を使って約2000億円の予算で進めてきたものだった。番組が融資平台を取材し賃金未払いについて質問すると、資金繰りは問題ないと答えた。各地方政府の融資平台は1万社以上あり、地方政府による融資平台を通した開発への投資が高い中国の経済成長を下支えしてきた。投稿された動画を調べると、融資平台関連の70件で賃金未払いが起きていた。

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中華人民共和国国家統計局成都市(中国)西安(中国)
地方財政に影響が?債務の実態を追う

各省や市の政府がネット上で公開している予算と決算の報告書を調べると、各地方政府が抱える債務の残高が掲載されていた。足し上げると総額は700兆円余にのぼった。融資平台に関するデータは見当たらなかった。調査の結果、中国のある民間企業から融資平台の債務のデータを入手できた。各地の融資平台の債務の残高の総額は1100兆円余で、地方政府の公式な債務を大きく上回っていた。この債務は銀行などが融資をする際地方政府が実質的に返済を保証しているとみなされているため、地方政府の隠れ債務とも言われている。一般的に国の中央政府と地方政府の債務を足してGDP比60%以内であれば財政が健全と言われている。中国の場合中央政府の公式債務500兆円余に地方政府の債務700兆円を足してもGDP比では52%。しかしこれに隠れ債務の1100兆円が加わると100%となり、財政が健全とされるラインを大きく上回っていた。さらに不動産不況のあおりを受け地方政府の収入も減少、債務の返済が一層難しい状況に陥っていた。元IMF職員のウィリアム・リー氏は「この巨額の債務は中国経済の根底を脆弱にするもの」「すでに地方政府は完済できる見込みもなくこれ以上の資金調達もできなくなっている」などと指摘した。

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カリフォルニア州(アメリカ)中国国際通貨基金専修大学
地方財政に影響が?”約1800兆円の債務”

個々の政府の財政はどこまで悪化しているのか。地方政府ごとの債務比率を調べ、債務比率が特に悪い10か所を見つけ出した。ワースト1位は天津で債務比率は1000%を超え残高残高は50兆円を超えていた。2位の重慶以降は内陸側に集中。陝西省はワースト10位で債務の比率が506%、債務残高は56兆円余だった。陝西省に加え3位の湖南省と9位の河南省は賃金未払いのデモが多発していた。

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天津(中国)河南省(中国)湖南省(中国)重慶(中国)陝西省(中国)
高いGDP成長率 地域経済の実態を追う

公共インフラへの投資は2000年代に入って年平均8%という中国の高いGDP成長率をささえてきたが、それが地方政府に総額1800兆円余の債務を負わせ中国経済にとっても大きなリスク要因となっていた。債務比率が最も悪い地域の一つである貴州省の貴陽を訪ねた。超高層ビルが建っていたが、かつてここは中国の中でも最も貧しい地域の一つだった。貧困からの脱却を目指す中央政府の掛け声のもと、地元政府は住民を立ち退かせて都市開発への投資を加速させた。融資平台によるインフラ開発などでGDPを押し上げてきたが、不要な橋や車の通らない道路などがあちこちに作られていた。車が通らないため道路を農地代わりに使っている農家もいた。工事が中断されたまま放置されたビルも少なくなかった。

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中華人民共和国国家統計局国内総生産貴陽(中国)
高いGDP成長率 衛星画像で検証

シカゴ大学のルイス・マルティネス教授は衛星画像から見える夜間照明の強さを分析することでGDPを推計している。夜間照明が強いところでは街が発展し経済が成長している。これらの経済活動を光の強さと密度によって数値化し計算している。アメリカや日本などでは政府発表の値と衛星画像から推計した値にほとんど差がないが、中国はその差が大きくなっていた。平均でその差は3%程度で、マルティネス教授は「統計上経済的な成功を示すことこそが政権を正当化する上で非常に重要になっている」などと指摘した。

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アメリカシカゴ大学中国北朝鮮国内総生産韓国
高いGDP成長率 地域経済の実態を追う

上智大学の倉田准教授と連携して貴州省のプロジェクトについて調べた。交通量の少ない幹線道路は地元の融資平台が800億円余かけた重点プロジェクトで、市街地と郊外につくられる開発地域を結ぶために建設された。2015年に工事が始まると周辺地域で開発が進み一時は夜間照明が増加していたが、2019年以降は明るさは減少。幹線道路の開通による経済効果は限定的との結果が示された。都市開発のために立ち退きをさせられたという女性が住んでいた場所は空地になっており、十分な補償も家ももらえていないという。家族は家賃2万円のアパートに3世帯9人で暮らしている。当初の約束では家を取り壊してから2年以内に新しい住居が与えられるはずだったが、約束は反故にされままとなっている。投資によってGDPを押し上げる手法が各地で大きなひずみを生み出していた。香港大学のシュ・チェンガン名誉教授は「中国の役人はGDPの成長率を押し上げるためにあらゆる手立てを講じています」「それが実際に有益かどうかは関係ありません」「中国のGDP統計は富の創造とは無関係なのです」などと話した。地方政府で開発を担当してきた現役職員は、GDPをめぐって中央政府から常に圧力を受けてきたと証言した。

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スタンフォード大学上智大学貴州省(中国)香港大学
中国経済”長期低迷”のリスク さらなる課題が

今回の取材から見てたのは経済が失速する中で、全国で多発していて賃金の未払い、その影には180兆円余の巨額な債務を抱えた地方財政の危機的な状況があった。これまでマンションなどへの投資が活発だったが、今は不動産売買が低迷。景気悪化に伴いローン返済に苦しむ人が増えている。中国全体の家計債務は増加しつづけ、現在は約1400兆円。債務の返済が負担となり、今後個人消費が伸び悩む可能性がある指摘されている。去年、中国では61年ぶりに人口が減少した。地方政府には社会保障費が4倍に増加した地域もある。2027年の中国のGDP成長率は3.7%と予測されている。

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国内総生産黒竜江省(中国)
(エンディング)
エンディング

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