日本人の睡眠時間は先進国中ワースト1位の短さ。平均より1時間も少ない。睡眠不足は健康だけではなく経済にも悪影響がある。寝不足による日本の年間経済損失額は約15兆円。今回は睡眠の真実、その研究の最前線について特集する。
70年前までは睡眠の仕組みは全く解っていなかった。後に睡眠研究の父と呼ばれるウィリアム・C・デメント博士が解明した。デメントはもともとフロイトに憧れ精神科医を目指していた。当時は「睡眠=脳の活動が休止した状態」と考えられていた。デメントはフロイトの研究への足がかりになると考え、睡眠の研究をしている教授に教えを請うた。デメントは睡眠中の脳波の研究の記録係となった。睡眠には眼球が動くなどする活動的な眠りと、そうでないゆったりした眠りがあることが解った。活動的な眠りはレム睡眠、そうでない眠りはノンレム睡眠と呼ばれるようになった。レム睡眠とノンレム睡眠は約90分の周期で繰り返される。この研究を機に、デメントは睡眠研究の道を進むことを決めた。1963年、デメントは不眠の世界記録に挑戦するという高校生のランディ・ガードナーを観察した。断眠2日目には目の焦点が合わなくなり、4日目には幻覚を見るようになり、8日目には記憶や言語が不明瞭になった。研究を通して睡眠不足の危険性が解った。実際、睡眠不足が命を奪うこともある。1986年、7名の乗組員が犠牲となったスペースシャトル・チャレンジャー号の墜落事故では、NASANO責任者らは十分な睡眠時間を取れていない状態で発射の決定をしていたことが判明した。睡眠不足の社会的な影響を重く見たアメリカ議会は、睡眠障害調査国家諮問委員会を設立した、デメントはその調査委員長になり、睡眠不足の危険性を調査した。デメントは1990年代、睡眠負債という概念を提唱した。睡眠不足が続くと借金のように積み重なってしまうというもの。少しの睡眠不足でも積み重なると返済できないくらい膨れ上がってしまう。研究では負債が溜まっている人ほどBMIが高くなったり糖尿病や高血圧などのリスクが高まったりする傾向があることが判明した。毎日40分の睡眠負債がある場合、返済するには十分な睡眠を3週間とり続けないといけない。2016年、アメリカのシンクタンクは睡眠不足による各国の経済損失額を発表した。日本は約15兆円だった。睡眠医学では睡眠時間と死亡率の関係から、ベストな睡眠時間はおおよそ7時間とされている。睡眠時間がなければ睡眠の質を高めるというアプローチもある。最初の深い睡眠、黄金の90分がとても大事。寝始めの90分(ノンレム睡眠)は、脳と体の休息、記憶の整理や定着、ホルモンバランスの調整など有益なことが多く行われている。何時に寝てもOKだが、成長ホルモンが出るかどうかは深い睡眠次第で、一晩に分泌される成長ホルモンのうち6割~7割は黄金の90分に分泌される。つまり、寝始めの90分の質を高めることで、短時間でも睡眠のコスパはアップする。そのためにはいかにスムーズに入眠できるかが大事。方法として、寝る90分前に入浴すること(ぬるめの38℃~40℃、お湯に浸かるのは15分ほどがいい)、自分だけのルーティンを大切にすること(寝る前のスマホは基本的にNGだが、寝付きやすい動画や音楽があるならOK)などがある。また、昼寝も効果的で、NASAの研究では昼間26分間の仮眠で認知能力が34%、注意力が54%向上するなどの結果が出ている。実際、仕事の生産性を上げるため社内に昼寝スペースを作った企業もあるなど、昼寝を効果的にとろうという動きは社会に広がっており、スリープテックという睡眠をサポートする様々なグッズも登場している。デメントは「睡眠はギフトである(Sleep is a gift.)」という言葉を残している。明日を良い日にするためには今夜から最高の睡眠を自分にプレゼントすることが大切なのかもしれない。
70年前までは睡眠の仕組みは全く解っていなかった。後に睡眠研究の父と呼ばれるウィリアム・C・デメント博士が解明した。デメントはもともとフロイトに憧れ精神科医を目指していた。当時は「睡眠=脳の活動が休止した状態」と考えられていた。デメントはフロイトの研究への足がかりになると考え、睡眠の研究をしている教授に教えを請うた。デメントは睡眠中の脳波の研究の記録係となった。睡眠には眼球が動くなどする活動的な眠りと、そうでないゆったりした眠りがあることが解った。活動的な眠りはレム睡眠、そうでない眠りはノンレム睡眠と呼ばれるようになった。レム睡眠とノンレム睡眠は約90分の周期で繰り返される。この研究を機に、デメントは睡眠研究の道を進むことを決めた。1963年、デメントは不眠の世界記録に挑戦するという高校生のランディ・ガードナーを観察した。断眠2日目には目の焦点が合わなくなり、4日目には幻覚を見るようになり、8日目には記憶や言語が不明瞭になった。研究を通して睡眠不足の危険性が解った。実際、睡眠不足が命を奪うこともある。1986年、7名の乗組員が犠牲となったスペースシャトル・チャレンジャー号の墜落事故では、NASANO責任者らは十分な睡眠時間を取れていない状態で発射の決定をしていたことが判明した。睡眠不足の社会的な影響を重く見たアメリカ議会は、睡眠障害調査国家諮問委員会を設立した、デメントはその調査委員長になり、睡眠不足の危険性を調査した。デメントは1990年代、睡眠負債という概念を提唱した。睡眠不足が続くと借金のように積み重なってしまうというもの。少しの睡眠不足でも積み重なると返済できないくらい膨れ上がってしまう。研究では負債が溜まっている人ほどBMIが高くなったり糖尿病や高血圧などのリスクが高まったりする傾向があることが判明した。毎日40分の睡眠負債がある場合、返済するには十分な睡眠を3週間とり続けないといけない。2016年、アメリカのシンクタンクは睡眠不足による各国の経済損失額を発表した。日本は約15兆円だった。睡眠医学では睡眠時間と死亡率の関係から、ベストな睡眠時間はおおよそ7時間とされている。睡眠時間がなければ睡眠の質を高めるというアプローチもある。最初の深い睡眠、黄金の90分がとても大事。寝始めの90分(ノンレム睡眠)は、脳と体の休息、記憶の整理や定着、ホルモンバランスの調整など有益なことが多く行われている。何時に寝てもOKだが、成長ホルモンが出るかどうかは深い睡眠次第で、一晩に分泌される成長ホルモンのうち6割~7割は黄金の90分に分泌される。つまり、寝始めの90分の質を高めることで、短時間でも睡眠のコスパはアップする。そのためにはいかにスムーズに入眠できるかが大事。方法として、寝る90分前に入浴すること(ぬるめの38℃~40℃、お湯に浸かるのは15分ほどがいい)、自分だけのルーティンを大切にすること(寝る前のスマホは基本的にNGだが、寝付きやすい動画や音楽があるならOK)などがある。また、昼寝も効果的で、NASAの研究では昼間26分間の仮眠で認知能力が34%、注意力が54%向上するなどの結果が出ている。実際、仕事の生産性を上げるため社内に昼寝スペースを作った企業もあるなど、昼寝を効果的にとろうという動きは社会に広がっており、スリープテックという睡眠をサポートする様々なグッズも登場している。デメントは「睡眠はギフトである(Sleep is a gift.)」という言葉を残している。明日を良い日にするためには今夜から最高の睡眠を自分にプレゼントすることが大切なのかもしれない。