IT産業の成長が見込まれるパキスタンで、インターネット通信の速度が大幅に低下している。パキスタン政府は、海底ケーブルの損傷が理由だと説明しているが、それを疑う声が出ているほか、経済への影響も心配だという懸念が指摘されている。パキスタンでは、急激な物価高騰などで経済の立て直しが必要となっているが、今、新たな課題が生じている。インターネットの速度の低下は、パキスタンのさまざまなビジネスに大きな影響を与えている。スマホのアプリなどの開発会社を運営する、ムハンマドタンウィルカーンさん。ことし8月ごろから通信速度が低下し、オンライン会議に支障が出ている。会社の従業員は10人ほど。電気代の上昇などを理由に、ことし6月にオフィスを閉鎖し、全面的にリモートワークに切り替えたところだった。さらに、顧客とのやり取りにも深刻な影響が出ている。ムハンマドさんは「インターネットの障害のため1〜2日ネットが完全に使えませんでした。そのためプロジェクトの提案書を提出できませんでした」と述べた。パキスタン全域で生じているこの現象。政府は海底ケーブルの損傷などが原因だとしている。しかし、成長が見込まれるIT業界では、政府の説明とは違う見方が強まっている。北西部の都市ペシャワルにあるSNS向けの広告代理店では、サイトが時には全く開けないこともあり、深刻な影響が出ている。パキスタンでは政府がSNSのXを遮断する措置を続けていることなどもあり、IT業界では政府による検閲の強化が通信速度の低下につながっているという受け止めが広がっている。会社では事態の悪化を防ぐため、政府の詳しい説明や一刻も早い対応を求めている。パキスタンの業界団体は、ネット通信の混乱で最大3億ドル、日本円にしておよそ430億円の損失が出る可能性があると試算。IT問題に詳しい専門家は、政府による監視の強化が原因だという見方とともに、企業の成長が阻害されるリスクを指摘する。