3年前、国のワクチン研究拠点の1つに選ばれた千葉大学で開発が進んでいるのが最先端の飲むワクチンだ。今、実用化を目指しているのはコレラのワクチン。このワクチンの原料となっているのがコメ。遺伝子組み換え技術によってワクチンの成分を作り出している。研究を行っている清野宏卓越教授は40年前から飲むワクチンの開発に取り組んできた。冷蔵保存が不要で輸送や保管にかかる費用も安く抑えられるためコレラが課題となっている発展途上国などで使いやすい。コメを使うもう1つの利点はコメの中にあるたんぱく質貯蔵体という構造。ワクチンの成分を胃や腸の消化酵素から守りながら体内に届ける役割を担いる。ワクチンを作る際にはまずコメの遺伝子を組み換えたんぱく質貯蔵体の中にワクチンの抗原を作り出す。これを飲み込むと腸の表面にある上皮細胞から抗原が取り込まれる。すると免疫細胞が働き抗体が作られる。抗体がコレラの毒素と結合することで毒素の侵入を防ぎ発症を予防することが期待できる。千葉大学にある栽培施設では現在、企業と共同で実用化を見据えた研究が進んでいる。イネは遺伝子を組み換えているため研究施設内の隔離された環境で厳重に管理されている。栽培には人工の光が必要で電気代などのコストがかかることが課題だった。そこで栽培用の照明は電力消費の少ないLEDを採用。LEDの光でよく育つイネを選抜することで安定した量のコメを収穫できるようになった。そしてことしは新たな研究拠点が千葉県柏市に完成する予定。これまでのおよそ2倍の面積でコメを栽培しワクチンの成分にするところまで一貫して行うことができる。来年には健康な人を対象にワクチンを飲んでもらう治験を始める計画で、実際に体内で抗体が作られるかを確認する段階に入る。清野教授は、まずはコレラのワクチンを実現させ将来的にはインフルエンザなどほかの感染症に対しても応用していきたいと話している。現在、開発中のコレラに対するワクチンは海外旅行で発症することの多い旅行者下痢性の一部にも効果がある可能性があるということで実用化されれば海外旅行に行く前に接種するという方法も考えられるという。