大関・貴景勝は「相撲の基本は押しだと思っている」と語る。ファンの裾野は幅広く、子どもから大人まで。自分は声援のおかげで白星を挙げてきたとしばしば公言している。勝ちだけではなく内容まで求められる大関という立場で、貴景勝は度重なるケガに苦しんできた。10月、九州場所を前に常盤山部屋の稽古に参加した貴景勝は自身も練習に励みながら後輩の指導も行っていた。東京に2歳の息子と妻を置いて挑む地方場所では寂しく思うこともあるという。貴景勝は1996年、兵庫県芦屋市生まれ。小学3年の時に相撲を始め、すでにこの頃から勝負の早い押し相撲に非凡な資質を光らせていた。全国大会の常連となり、高校在学中に当時の貴乃花部屋に入門。母親の大反対にあったが、順調に勝ち星をあげていった。「押し相撲では綱は取れない」が常識の相撲界において貴景勝の相撲は常に周囲から疑念の声を投げかけられていた。だからこそ「自分は押し相撲で横綱になりたい」と夢を抱いている。度重なるケガに見舞われながら迎えた2023年の九月場所。貴景勝は痛みをねじふせ11勝4敗で優勝を果たした。しかし優勝決定戦で叩き込みで勝利した試合内容に眉をほそめる親方たちもいた。大関の風格が問われるとの論評があちこちで出たが、貴景勝は「どうしても優勝したかった」と会見で語っている。首の不調に苦しみながら迎えた九州場所初日。貴景勝は緊張した面持ちで会場へ向かった。