社会言語学者のヴォーゲ・ヨーランは週1回は夜の町を歩く。笑いのコミュニケーションが溢れる飲食店街は絶好の調査フィールドである。この日訪れたのはヴォーゲ行きつけのバーであった。「女性客との会話」では気になる点があり、女性は頻繁に相づちを打っていたがヴォーゲの目線として「相づち」文化が笑いにつながるのだという。社会言語学は言葉と社会との関係を研究したり分析したりする学問で特に笑いの役割にヴォーゲは注目した。日本中をめぐり日本人と直接会話を交わすことで研究を続けてきた。これまで発表してきた論文は10以上でヴォーゲの日本研究は欧米の国際学会でも好評を得た。中でも関係者の興味を惹いたのがボケ・ツッコミ文化の考察である。日本はボケ役とツッコミ役、2人の会話形式で展開する漫才やコントが主流だが欧米は単独で行うスタンドアップコメディが主流となっている。話しのオチはあるがツッコミは存在しない。行きつけのヴォーゲを見てみると挨拶も早々に一斉にツッコミが入った。来日当初はこうした掛け合いに全くついていけなかったというヴォーゲだが、飲み仲間に教えられようやく対応できるようになってきた。ボケとツッコミが始まる前の決まり事を「Contract」と表現したが一体どういうことなのか。ソーシャルコントラクトとは社会を組織するための人々の暗黙の合意を意味する社会学用語だという。自然に生まれているように見えるボケ・ツッコミにも実は契約が結ばれているという。この契約は古くからの友人でも必要だとヴォーゲは語る。「笑いの契約」には相手の気持ちを察することがとても大事にされる日本社会が見えてくる。
こうしたヴォーゲの研究は国内の研究者にはどのように映るのか。幼少期から外国語を学ぶことが大好きだったヴォーゲ。高校時代には日本語の読み書きを習得し、その一方で数学オリンピックに出場する秀才だった。その後将来の進路として言語学を選んだヴォーゲは日本へ留学。そこが笑いの本場大阪だったことがヴォーゲの研究に火をつけることになった。2010年に日本人と結婚し、現在は兵庫県で暮らしている。3人の子どもは関西生まれ・関西育ちで食卓はいつも賑やかである。家族との団らんもヴォーゲにとっては重要な研究サンプルである。この日は大学で行うヴォーゲの調査に立ち会うことになった。案内されたのレセプションルームで笑いに関する実験調査を行うという。親交のある関西学院大学のお笑いサークル漫才師3組に協力を依頼し、お客さんとして学生54名を集めていた。前説と呼ばれる事前説明で自ら笑いを取った後、漫才ステージがスタートした。1組の持ち時間は5分でそれぞれ得意なネタを披露してもらい、お客さんの反応を細かく調査するのが狙いである。ヴォーゲの指示で学生たちが一斉にアンケートを書き出した。そこに気になるワード「臨場感」を発見。ノルウェーでは見たことのない実際にその場にいるかのような感じである「臨場感」こそ日本人のコミュニケーションで重要なのではないかという。そこで今回は漫才での臨場感を数値化するため、学生たちに5段階で判定してもらうこととなった。ツッコミが状況説明をすることでイメージを共有できていた。日本の笑いであるボケとツッコミは「祝福のツール」であるとノルウェーの社会言語学者・ヴォーゲは導き出した。
漫才のルーツは平安時代の民俗芸能「万歳」と言われている。ツッコミにあたる太夫が扇、ボケにあたる才蔵が鼓を持ち歌と踊りそして滑稽なやりとりで新年を祝っていたという。その伝統は昭和に花開き、テレビの普及とともに発展した。昭和・平成・令和、時代とともに変化を遂げてきた。ヴォーゲは学生たちを連れ、漫才劇場を訪れていた。この日の漫才師は8年目までの若手コンビ8組である。王道のしゃべくり漫才から漫才コントまで、それぞれが持ちネタを披露した。鑑賞後、ヴォーゲは学生たちへの聞き取りを始めた。学生が注目したのは「ツッコミの変化」であり、8組の中に頭を叩くものは誰1人としていなかった。人々の笑いの価値観の変動は漫才の世界にも反映されている。コミュニケーションを豊かにするための笑いの形も今後変化していくとヴォーゲは予想していた。ノルウェー言語学者が見つめる日本で笑いの変化はコミュニケーションの形さえも変えていくのだろうか。
こうしたヴォーゲの研究は国内の研究者にはどのように映るのか。幼少期から外国語を学ぶことが大好きだったヴォーゲ。高校時代には日本語の読み書きを習得し、その一方で数学オリンピックに出場する秀才だった。その後将来の進路として言語学を選んだヴォーゲは日本へ留学。そこが笑いの本場大阪だったことがヴォーゲの研究に火をつけることになった。2010年に日本人と結婚し、現在は兵庫県で暮らしている。3人の子どもは関西生まれ・関西育ちで食卓はいつも賑やかである。家族との団らんもヴォーゲにとっては重要な研究サンプルである。この日は大学で行うヴォーゲの調査に立ち会うことになった。案内されたのレセプションルームで笑いに関する実験調査を行うという。親交のある関西学院大学のお笑いサークル漫才師3組に協力を依頼し、お客さんとして学生54名を集めていた。前説と呼ばれる事前説明で自ら笑いを取った後、漫才ステージがスタートした。1組の持ち時間は5分でそれぞれ得意なネタを披露してもらい、お客さんの反応を細かく調査するのが狙いである。ヴォーゲの指示で学生たちが一斉にアンケートを書き出した。そこに気になるワード「臨場感」を発見。ノルウェーでは見たことのない実際にその場にいるかのような感じである「臨場感」こそ日本人のコミュニケーションで重要なのではないかという。そこで今回は漫才での臨場感を数値化するため、学生たちに5段階で判定してもらうこととなった。ツッコミが状況説明をすることでイメージを共有できていた。日本の笑いであるボケとツッコミは「祝福のツール」であるとノルウェーの社会言語学者・ヴォーゲは導き出した。
漫才のルーツは平安時代の民俗芸能「万歳」と言われている。ツッコミにあたる太夫が扇、ボケにあたる才蔵が鼓を持ち歌と踊りそして滑稽なやりとりで新年を祝っていたという。その伝統は昭和に花開き、テレビの普及とともに発展した。昭和・平成・令和、時代とともに変化を遂げてきた。ヴォーゲは学生たちを連れ、漫才劇場を訪れていた。この日の漫才師は8年目までの若手コンビ8組である。王道のしゃべくり漫才から漫才コントまで、それぞれが持ちネタを披露した。鑑賞後、ヴォーゲは学生たちへの聞き取りを始めた。学生が注目したのは「ツッコミの変化」であり、8組の中に頭を叩くものは誰1人としていなかった。人々の笑いの価値観の変動は漫才の世界にも反映されている。コミュニケーションを豊かにするための笑いの形も今後変化していくとヴォーゲは予想していた。ノルウェー言語学者が見つめる日本で笑いの変化はコミュニケーションの形さえも変えていくのだろうか。