近い将来、起きるとされる「南海トラフ巨大地震」。大規模災害で被災地に医療は適切に提供されるのか。松山放送局・解説委員・宮原豪一の解説。地震調査委員会は先月、南海トラフ地震が今後30年以内に起きる確率について70%〜80%を80%程度に引き上げた。南海トラフ地震では「未治療死」が多く生じるおそれがあると言われている。未治療死とは、建物の倒壊などで負傷した重傷者が適切な治療を受けられないまま搬送途中などで死に至るケース。災害医療が専門で日本医科大学・布施明教授らの研究グループでは、特にけが人の数が多いと想定される沿岸部を対象に、被害想定などをもとに重傷者の分布を作成し、最も近い医療機関を受診するという想定で試算を行った。重傷者数に占める未治療死を紹介(愛知県64.1%、静岡県78.7%、三重県81.5%、和歌山県79.5%、高知県85.0%、徳島県75.4%、愛媛県66.7%)。未治療死が起きる要因について。超広域災害(想定される重傷者など、全国で約15万人)→地域によっては医療のパワーを上回る事態に。地理的な要因→医療機関までのアクセスが悪い地域(佐田岬、足摺岬、伊豆半島など)。高知県の半島部のケースを紹介。対策について。国が力を入れているのが医療コンテナで、治療に必要な資材を備えている。能登半島地震では全国から34の医療コンテナが派遣された。国も今年度から補助金を設けて本格的な普及を進めている。特殊車両「モバイルファーマシー」(走る薬局)の導入も広まっている。災害時は薬剤師が約500種類の薬を被災地で調剤することができる。現在、全国に約20台配備。しかし、普段の業務として調剤することは法律で認められていないため、医療コンテナとともに平時にどう活用し普及を図るかがカギを握る。DMATなどの既存の団体に加え、民間団体と連携した医療スタッフの確保が重要。徳島県で行われた訓練(去年11月)を紹介。被災が想定される地域の中ですべての医療関係者が災害医療に携わることができるよう、普段から人材を育成していくことも求められている。沿岸部に住む人の備えについて。住宅の耐震化、家具の固定、非常用持ち出し袋に包帯、ガーゼ、お薬手帳のコピーなどを加える、医師と相談し持病の薬を確保する。治療が受けられないことを前提に備えておくことが重要。