宮崎県在住の松田さんは母の代からの美容師。地元で40年働き続けている。仕事を終えて帰宅すると勝手口に野菜がたくさん置いてあった。毎日のように誰かしらが食材を届けてくれるという。台所で一番活躍しているのが大鍋。松田さんは30年前に夫・寛さんと結婚。娘4人が生まれて家族は6人の大所帯になった。寛さんは大食漢で家族みんなも食べるのが大好き。それまでの鍋では足りなくなって寛さんと一緒に赤い大鍋を買った。おすそわけでもらった食材を大鍋で食べるのが日曜日の習慣になった。月曜日の朝、一人暮らしのご近所や親戚におすそわけにまわるまでがセット。寛さんは元々、高校の同級生で気の優しい人で台所ではいつも手伝うことはないか気にしてくれたという。寛さんは去年3月、自ら命を絶った。仕事が原因なのか、理由は分からない。亡くなったのは月曜日の朝。前の晩はいつものように娘たちも集まっての大鍋を囲む日曜日だった。呆然と立ち尽くしていた松田さんの目に止まったのが大鍋だった。気づくといつも夫としていたように近所におすそわけに向かっていたという。寛さんが亡くなってから1年余り。変わらず日曜日の大鍋は続いている。独立して家を出ている娘たちも日曜日には母のもとに集まる。九州のこの地域のおでんは軟骨のスープが必須。かつて寛さんが座っていた場所は孫の星音ちゃんの席になった。話すのは寛さんのこと。松田さんは「(夫のことは)忘れないし、忘れられない。私たちが普通にちゃんと生活していくのが一番の供養になるというか、夫がほっとできるんじゃないかな」などと語った。
