中国・広東省の深圳は人口約2000万人、ITやハイテク関連企業を生み出し、中国の経済成長を牽引してきた。李治国は倒産した店の設備を買い取り販売するビジネスをしている。この日、李は倒産したレストランに乗り込み、備品の品定めを行った。店の経営者は20代で1500万円を元手に起業したがわずか半年で潰してしまっていた。李治国は24万円で厨房周りの設備を買い叩いた。中国では昨年300万件近くの飲食店が閉店し、過去最多と言われた。李はこの1年間で100以上の飲食店の設備を買い取り、仕入れ値の倍以上の値段で販売して業績を伸ばしている。この日、李は同業者にとあるトラブルの聞き込みを行っていた。李から設備を購入した人物が食堂を開業したが未払のままであった。李は店主と連絡を取り、200万円中40万円を支払わせた。
閉鎖された新型コロナウイルス感染者隔離施設には金になる中古品を狙う業者たちが集まっていた。2年前に中古品業界に飛び込んだ張も情報を入手して駆けつけていた。張は給湯器8000台を2700万円で買い取った。しかしその一部を地元の人間に持ち出されたが、張は地元の人間とうまくやっていかなくては商売ができないため穏便に済ませるしかなかった。張は20歳でマットレスの製造工場を立ち上げたが約2年で不動産バブルの崩壊で立ち行かなくなり、不動産業界から手を引いた。この日、張は同業者たちと会食し、腹の中を探り合った。張はわずか2日で給湯器8000台を売り切り、500万円の利益を得た。
この5年で中国では30万以上の企業が倒産し、中古品市場は25兆円を突破した。包迎拴は金属加工の機械を取り扱っており、全国の業者から仕入れを行う業界の大元締め。包はSNSで80万人のフォロワーを持つインフルエンサーでもあり、自身でも業界トップを自負していた。王磊は中古品業界で手強い交渉相手として知れ渡っている。王は自分の交渉力を取材陣に披露した。この日、王は倒産者からの夜逃げ依頼を受け、取材を拒否した。1週間後、夜逃げ依頼の仕事を終えた王は自ら撮影した夜逃げ仕事の様子を紹介した。この日、包と王は会食し近況などを話し合った。包は中国・河南省に拠点を置いており、そこにはスマホの世界最大級の生産拠点や販売台数世界トップの電気自動車メーカーも巨大工場を稼働させ、関連企業も増えつつあった。この日、政府の内陸部支援を頼って沿岸部から内陸部に工場を移転した経営者が包のもとに訪れ機械を購入した。
包は朝一の水泳を1年中欠かしておらず、この業界はタフでないと勝ち残れないのだと語った。包は17歳で出稼ぎにいき、20歳で会社を起こし、中国の経済成長時期に重なり富を得てきた。中国製造業を長年見てきた包は中国は驕ってしまったなどと語った。包は度々自身のSNSで中国の経済成長を支えたのは外国の企業・技術であり追い出してはいけないと主張し、その度に批判も浴びてきた。11月、包のもとに地元の共産党幹部が二人で訪れ、包に事業拡大を要請した。不動産バブル消失から地方政府は深刻な財政難に陥っていた。包は政府に与えられた土地では税金が多く課せられ、うまい話に載せられて損をする可能性を回避するため断っていた。しかし3日後に別の共産党幹部から包に連絡が入り、現在の土地を没収するという通知が届いた。包はすでに土地の支払いは完済しており、地元の役場に訪れ、秘策を講じて土地の没収を防いだ。11月7日、習近平国家主席がトランプ氏に大統領当選の祝辞を述べたニュースが報じられ、包はトランプが中国に貿易戦争を仕掛けてくると予測して頭を抱えていた。国内消費の低迷が経営に影を落としており、包は事業見直しを行っていた。
包はビジネスの右腕である王を呼び出し、今後について話し合った。1ヶ月後、包は中国での事業を部下に任せ日本での事業を開始していた。包は日本で一軒家を借り、すでに1000万円を投資して仕入れを行い、中古品売買の資格も取得して中国に仕入れ品をコンテナ船で発送していた。包は80万のフォロワー相手にネット通販を開始し、現時点での取り扱う商品規模は小さいが将来を見据えて意気込んでいた。臨界世界、限界のその先で人々は生きる道を探し続けている。