時論公論 (時論公論)
ことしも熱戦が繰り広げられた夏の全国高校野球。その一方で広島の広陵高校が部内で上級生が下級生に暴力をふるった問題を巡り大会途中で出場辞退したことが大きな騒動となった。背景にあるもの、求められることについて考える。
学校によると、ことし1月に4人の上級生が下級生に個別に暴力をふるい、下級生は3月末に転校。これについては3月に日本高野連が厳重注意をしていたが規則で公表はなく、大会前にSNSで情報が拡散された。これをきっかけに別の元部員が監督やコーチ、一部部員から暴力や暴言を受けたと投稿するなど様々な情報が拡散し学校に抗議が殺到する事態に。学校は大会途中での出場辞退を決め、監督と野球部長をともに交代させ、第三者委員会を設置し調査を進めている。不祥事について報告が正確か疑念を持つ人もいて騒動に拍車がかかった。学校は外部の視点を重視し、再発防止を徹底することが求められる。
過度な上下関係は多くの学校でも聞かれる。高知大学の中村哲也准教授は「部員数が多い強豪校では、効率的に部を強化し秩序を守るため、上級生が下級生を制裁で支配する構造が生まれやすい」と指摘。ゆがんだ構造を生み出しやすくなる要素が部員の多さ。広陵高校の部員は164人と夏の甲子園出場校で最多。部員数の多い強豪校ではほとんどの部員は背番号がもらえないケースが多い。レギュラー部員には特権意識が、出場できない部員には劣等感が生まれ、理不尽な行為に拍車がかかる可能性も指摘される。ゆがんだ構造を生じさせないために、部員の多い学校では実力で分けたチームごとに練習試合するケースが増えている。学生がスポーツに取り組む本来の意義はなにか見つめ直し、部活動が合理的な根拠と言葉で人や組織を動かす人材を育成する場になることが求められる。