視点・論点 (視点・論点)
慶應義塾大学の西野純也教授が「韓国 大統領罷免と社会の分断」について解説。4月4日、韓国の憲法裁判所は全員一致でユン・ソンニョル大統領の罷免を決定した。ユン大統領の弾劾裁判が続く中で賛成派と反対派が激しく対立し韓国社会の分断の深刻さに改めて注目が集まった。ユン大統領は去年12月3日、国会や政党の活動を制限する非常戒厳宣言を発令。国内の反発が高まり12月14日には大統領の弾劾訴追案が国会で可決、憲法裁判所で弾劾が妥当か審査されることになった。ユン大統領が非常戒厳宣言をした背景には革新系野党による国会での妨害や野党の北朝鮮との結びつきを疑う認識があった。この大統領の認識はこれまで北朝鮮と革新野党のつながりを疑っていた保守派の団結を促し弾劾訴追デモへと発展した。大統領の弾劾可否は保守派と革新派のイデオロギー対立の争点となり、国内の分断は深まった。これまでも保守と革新の分断の溝が顕著だった韓国。2022年の大統領選では保守代表のユン氏と革新政党代表のイ・ジェミョン氏の差はたったの0.73ポイントしかなく、その数字は分極化を鮮明に可視化していた。しかし、去年の国会議員選挙では野党が大勝。憲法裁判所はそれら世論の動向を鑑み、今回の裁判で全会一致でユン大統領の罷免を決定。これ以上韓国で分断が広まらないよう慎重に決定したとみられている。決定後の韓国の世論調査では国民の80%以上が「この決定を受け入れる」と回答。野党もこの決定を歓迎しているが、弾劾に反対してきた与党は次の大統領選挙で極めて不利な立場に追い込まれることが予想される。世論調査では最大野党代表のイ・ジェミョン氏が2位以下を大きく引き離して次期大統領候補におどり出ている。選挙戦で野党側が弾劾反対の立場を取っていた与党側を厳しく追及することは明白であり、今後も韓国社会が分断から協調へと転じることは容易ではない。