2024年8月20日放送 9:05 - 9:50 NHK総合

プロフェッショナル
思いを繕う、私を裁つ 〜靴修理職人 村上塁〜

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(オープニング)
オープニング

今回は、靴修理職人の村上塁(41)についてお送りする。他の修理店や製造元ですら匙を投げるような靴をも蘇らせてきた。持ち主との思い出さえ再生させる。

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ハドソン靴店村上塁
file:532 思いを繕う、私を裁つ
依頼の絶えない修理店

横浜市神奈川区。村上塁(41)は築41年のアパートに1人で暮らしている。仕事が中心の生活。趣味はなく、衣食住にも拘りはないという。横浜の中心地から車で10分、古い商店街の中に村上の靴修理店はある。もとは靴製造を手掛ける老舗だったが、13年前に先代が亡くなった後を、修理店として村上が継いだ。依頼は全国から年間1000足以上に上る。この日、取り掛かろうとしていたのは男性用の革靴。依頼主は40代の銀行員。靴底はすり減り、かかとやつま先の部分にも大きな穴が空いていた。村上は糸に松脂を練り込み始めた。糸から作る修理職人は極めて珍しい。もう一人の職人が靴を分解し、中の状態を確認する。かかとの部分には過去の修理で2枚の革が加えられていた。オリジナルの革を傷つけないよう、重ねられた革を剥がした。革の下からステッチを用いたオリジナルのデザインが現れた。オリジナルに近い形で再生させた。損傷の激しい中底は、松屋にを練り込んだ糸で新しいものを縫い付けた。わずかな職人しか使うことのできない“すくい縫い”と呼ばれる技法は、靴の強度を格段に増すことができる。長年履くことで生まれる革の癖やうねり、伸び縮みした針穴の間隔などに適切に対応するため、村上はあえて手縫いに拘っている。靴の先にあるお客さんの顔を思い浮かべて仕事をしている。

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ハドソン靴店村上塁神奈川区(神奈川)

「プロフェッショナルのこだわり」について紹介。他店が断る修理も進んで引き受ける村上の店。どんな修理にも対応できるよう、靴底や染料など、問屋を上回る種類の材料を取り揃えている。さらに町工場を訪ねては探し、なければ作ってもらえないか相談する。立て込んでいるときでも時間かけて丁寧に接客を行い、お客さんが(耐久性・履き心地・ファッション性など)その靴のどこに惚れているのかを聞き出し、修理方法を提案する。

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サントーニハドソン靴店マグナーニ村上塁浅草(東京)

常連客から珍しい依頼があった。靴の色を変えてほしいというものだが、修理代の方が購入金額よりも高く付きそうで、思い入れのある一足であることが窺える。自ら開発した109種類の染料を用いて、革の密度を読みながら少しずつ色を染み込ませていった。翌日引き渡したが、その2日後、もう少し赤みのある薄めのブラウンにしてほしいと再依頼された。村上は作業をしながら、「こういうのはお客さんから教えてもらう技術なんですよね」と言った。「どんなに染める技術が高くとも、お客さんが満足しなければ、そんな技術はないのと等しい。プライドなんかない。全てはお客さんが笑顔になるかどうかだけ」と語る。求められてこその技術。二度目の引き渡しの日を迎えた。今度は見た瞬間から気に入ってもらえた。

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ハドソン靴店村上塁
依頼の絶えない靴修理職人

村上は毎朝1時間かけて、6本の革包丁を研ぎ揃える。13年、その日課を守り続けてきた。研いでおかないと落ち着かないという。村上はずっとやりたいことが見つからなかった。3浪して入学した大学を2年で中退した。きっかけはテレビで目にした靴職人の番組だった。手で何かを生み出すことに魅力を感じた。24歳で専門学校に入学すると、教官から1人の職人を紹介された。店の先代である佐藤正利さんである。吉田茂元首相や石原裕次郎さんの靴を作り、“靴の神様”と言われた職人。佐藤さんはどんな難しい依頼も決して断らなかった。村上は専門学校をやめ、佐藤さんのもとに通い、靴作りの技術を学んだ。しかし2年後、浅草の靴工房に就職した村上を待っていたのは厳しい現実だった。安く大量に生産できる靴がますます主流になり、手仕事の需要は激減していった。ある日、佐藤さんが亡くなったという知らせが届いた。線香を上げに行くと、家族は店を閉めるつもりだ話していた。村上はもう1人の友人とともに店を継ぐことにした。しかし、先代の客のほとんどは継続して来てくれなかった。友人は1か月で店を去った。身の振り方を考えていたとき、近所の女性が訪ねてきた。すり減ったヒールを修理してほしいという依頼。他人が作った靴を直すことに気が進まなかったが、村上は生活のためと割り切ってそれを引き受けた。しかし、これまで学んだ男性ものの革靴とはことなる構造で、ヒールの外し方すらわからなかった。「他の店に頼んでください」と未完成の靴を渡すと、それでも女性はお礼を言ってくれた。村上は顔を上げることができなかった。環境や周りの要因に責任を押し付け、向き合ってこなかった自分に気付かされた。師である佐藤さんの姿を思い出し、生き残るために「修理」に全力で向き合おうと思った。村上は靴の修理を看板に掲げ、どんな依頼でも引き受けると決めた。半端な自分を認め、依頼主の思いを汲み取り応えることだけに全てを注いだ。その日々を13年続け、村上のもとには修理の依頼が殺到するようになった。

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ハドソン靴店佐藤正利吉田茂村上塁石原裕次郎
依頼の絶えない修理店

かつてない大修理が始まろうとしていた。良質な革で仕立てられた女性もののブーツ。余命宣告を受けた母親が大事にしていたもので、修理して娘さんに贈りたいという依頼。しかし娘さんの方が足のサイズが小さく、2.5センチ靴を縮小させなければならないのが難しいところ。分解した革を23センチの木型に合わせて仮どめし、娘さんに試着してもらった。村上は会話の中で、娘さんが履き心地に不満を感じていることを見抜き、詳細を聞き出した。長く履いてもらえるよう、ギリギリを突き詰めて革を裁断した。革に針を入れ、靴を繕う。同じ針穴を通すことで、なるべく母親が履いてきた証しを消さないようにした。引き渡しの日を迎えた。娘さんの足にぴったり合い、問題だったたわみもなくなっていた。母親も「いい感じ、かわいくなった」など仕上がりに満足げだった。5日後、母親は静かに息を引き取った。村上は「間に合ってよかった」と安堵の笑みを浮かべた。村上にとってプロフェッショナルとは「心が折れかけても、また前を向いて生き残るための手段を考え続けられる人」。

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ハドソン靴店村上塁
(エンディング)
次回予告

「プロフェッショナル 仕事の流儀」の次回予告。

(番組宣伝)
NHKスペシャル

「NHKスペシャル」の番組宣伝。

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