横浜市神奈川区。村上塁(41)は築41年のアパートに1人で暮らしている。仕事が中心の生活。趣味はなく、衣食住にも拘りはないという。横浜の中心地から車で10分、古い商店街の中に村上の靴修理店はある。もとは靴製造を手掛ける老舗だったが、13年前に先代が亡くなった後を、修理店として村上が継いだ。依頼は全国から年間1000足以上に上る。この日、取り掛かろうとしていたのは男性用の革靴。依頼主は40代の銀行員。靴底はすり減り、かかとやつま先の部分にも大きな穴が空いていた。村上は糸に松脂を練り込み始めた。糸から作る修理職人は極めて珍しい。もう一人の職人が靴を分解し、中の状態を確認する。かかとの部分には過去の修理で2枚の革が加えられていた。オリジナルの革を傷つけないよう、重ねられた革を剥がした。革の下からステッチを用いたオリジナルのデザインが現れた。オリジナルに近い形で再生させた。損傷の激しい中底は、松屋にを練り込んだ糸で新しいものを縫い付けた。わずかな職人しか使うことのできない“すくい縫い”と呼ばれる技法は、靴の強度を格段に増すことができる。長年履くことで生まれる革の癖やうねり、伸び縮みした針穴の間隔などに適切に対応するため、村上はあえて手縫いに拘っている。靴の先にあるお客さんの顔を思い浮かべて仕事をしている。
「プロフェッショナルのこだわり」について紹介。他店が断る修理も進んで引き受ける村上の店。どんな修理にも対応できるよう、靴底や染料など、問屋を上回る種類の材料を取り揃えている。さらに町工場を訪ねては探し、なければ作ってもらえないか相談する。立て込んでいるときでも時間かけて丁寧に接客を行い、お客さんが(耐久性・履き心地・ファッション性など)その靴のどこに惚れているのかを聞き出し、修理方法を提案する。
常連客から珍しい依頼があった。靴の色を変えてほしいというものだが、修理代の方が購入金額よりも高く付きそうで、思い入れのある一足であることが窺える。自ら開発した109種類の染料を用いて、革の密度を読みながら少しずつ色を染み込ませていった。翌日引き渡したが、その2日後、もう少し赤みのある薄めのブラウンにしてほしいと再依頼された。村上は作業をしながら、「こういうのはお客さんから教えてもらう技術なんですよね」と言った。「どんなに染める技術が高くとも、お客さんが満足しなければ、そんな技術はないのと等しい。プライドなんかない。全てはお客さんが笑顔になるかどうかだけ」と語る。求められてこその技術。二度目の引き渡しの日を迎えた。今度は見た瞬間から気に入ってもらえた。
「プロフェッショナルのこだわり」について紹介。他店が断る修理も進んで引き受ける村上の店。どんな修理にも対応できるよう、靴底や染料など、問屋を上回る種類の材料を取り揃えている。さらに町工場を訪ねては探し、なければ作ってもらえないか相談する。立て込んでいるときでも時間かけて丁寧に接客を行い、お客さんが(耐久性・履き心地・ファッション性など)その靴のどこに惚れているのかを聞き出し、修理方法を提案する。
常連客から珍しい依頼があった。靴の色を変えてほしいというものだが、修理代の方が購入金額よりも高く付きそうで、思い入れのある一足であることが窺える。自ら開発した109種類の染料を用いて、革の密度を読みながら少しずつ色を染み込ませていった。翌日引き渡したが、その2日後、もう少し赤みのある薄めのブラウンにしてほしいと再依頼された。村上は作業をしながら、「こういうのはお客さんから教えてもらう技術なんですよね」と言った。「どんなに染める技術が高くとも、お客さんが満足しなければ、そんな技術はないのと等しい。プライドなんかない。全てはお客さんが笑顔になるかどうかだけ」と語る。求められてこその技術。二度目の引き渡しの日を迎えた。今度は見た瞬間から気に入ってもらえた。