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オープニング映像。
山口の宇部空港から車で5分ほどの場所にあるときわ動物園。その一角に注目の動物園がある。やってきたのは動物好きの田中直樹。若生謙二作のときわ動物園は2006年にオープン。サルを中心に26種の動物を展示している。ときわ動物園は5つのゾーンにわかれているが大きさは東京ドームの半分ほどだが見どころは満載。アジアの森林ゾーンは森の中をぬけるとハヌマンラングールという猿が。田中は蛇行した道を抜けた先にばったりであるのは良いと答えた。こうした演出は動物園デザイナーの若生謙二によって生み出されている。その秘密について若生は生息している環境をつくり、造園の技、ランドスケープの技があるという。
ときわ動物園でまず目に入ってくるのはアジアの森林をイメージした植栽。蛇行する道に入り1つ目のカーブを曲がると、テナガザルがいたが、日本庭園でも用いられる造園のワザが光っているという。若生は日本庭園でいう回遊式庭園でもつかわれ、園路を周りながら一つ一つの景に遭遇していくのと近いという。回遊式庭園とは伝統的な日本庭園の様式の一つで、園内の小路を巡ってくと目を見張る景観があらわれるようにデザインされている。ときわ動物園でも小路のカーブを曲がったその先に広がる景色に若生はこだわった。先ほどの光景では、奥に見えている倒木はアジアの森林ゾーンに入ったハヌマンラングールの先にあるシロテテナガザルの住む森のもの。角を曲がると、いきなりシロテテナガザルに出会えるかもしれないという若生の遊び心あふれるデザインになっている。またハヌマンラングールが使っているものは本物の木に似せて作られた擬木。これも造園で使用されるワザで、本物のようにリアルな擬木は全て専門の職人の手によるもので若生が2009年に手掛けたよこはま動物園ズーラシアのチンパンジーの森でも、木は擬木で、動物を客に見やすい位置に誘導しつつ絡んだ幹などが風景に溶け込んでいる。
シロテテナガザルがいるエリアにやってきた田中。東南アジアに生息する類人猿の仲間で、見事な身のこなしで枝から枝へ飛び移る腕渡りと呼ばれる方法でどうするが、これも若生の技法によって生み出されたが動物の住む環境を再現しているという。
かつてのときわ動物園ではシロテテナガザルは狭い檻の中に飼育されていた。動物園をリニューアルすることになった若生がまず行ったのはシロテテナガザルの生息地のマレー半島とスマトラ島の調査だった。調査の結果当初想定していた10mを超える倒木だけでなく中継木も配置。いきいきとした腕渡りを引き出した。さらにデザインにはシロテテナガザルの水を嫌う習性を利用して周囲を水濠にかえることで柵のない美しい展示に。水濠をグルっと回っていくとシロテテナガザルの寝室が。若生が実際にスマトラ島でみた農家の建物を再現した。動物の生息環境をただ再現するのではなくより自然らしさを感じられるように緻密にデザインされている。
若生は1954年に大阪で生まれた。動物園に興味をもったきっかけは小学校3年の時に店で手にした一冊の本。ドイツに画期的な動物園を作ったカール・ハーゲンベックの生涯を描いた漫画を手にした。ハーゲンベックは、肉食動物と草食動物が同じ空間にいるようにみえるパノラマ展示を考案した。若生はこの本で動物園に興味をもったという。ハーゲンベックの動物園はイギリス風景式庭園で培われてきたハハーという技法を応用している。柵の代わりに堀を作って外からの動物の侵入を防ぎながら庭園と外の空間を連続した景観にみせるという造園のワザ。大学で造園を学び、動物園づくりは造園だと気付いた若生は動物園の研究にのめり込んでいった。転機が訪れたのは1987年、新たな展示を模索していた大阪の天王寺動物園から依頼をうけた。
田中は天王寺動物園へ。若生の動物園デザイナーとしてのデビュー作がある。アフリカサバンナゾーンでは、園内の道幅を狭くしていくことで奥行きを感じさせる工夫が施されている。岩の小さな隙間に何かを発見したがそこから動物を覗くことができるが隠して見せるということが若生の追及してきた動物園の原点。階段を降りた先に広がるのは若生最大の展示。草食動物のキリンやエランドにシマウマなどアフリカの草原をリアルに再現した風景。驚くのは手前にライオンの姿がある。
天王寺動物園にやってきた田中直樹。アフリカサバンナゾーンに広がっていたのは肉食動物と草食動物が同じ空間にいるエリア。若生がイギリス式庭園の技法を応用して作った光景。それぞれの動物と観客は水濠によって育てられているが、その堀には起伏や植栽をつかって観客の視線から匠に隠されている。ここで田中はお客の姿が見えない位置があり、左手の岩の奥にはライオンを間近で鑑賞できるスポットがあり、若生の展示は一つの鑑賞ポイントから他の鑑賞ポイントが見えないように設計されているが造園の技が光っているという。若生は天王寺動物園の展示計画で日本造園学会賞を受賞。そして日本各地の動物園にデザインで革命を起こした。
ときわ動物園ではアフリカの草原やサバンナに暮らすパタスモンキーが。アフリカ中部の熱帯雨林や湿地帯に多くみられるブラッザグエノンやワオキツネザルなどのエリアはマダガスカルの乾燥地帯を再現している。鋭いトゲが特徴のマダガスカル固有種のカナボウノキが生えているがこれも擬木。生物多様性の環境を通じ人間にもその一部であることを感じてほしいとデザインされる。最後にたどり着くのが宇部の自然ゾーン。万倉の大岩郷がデザインされた猿山がある。
田中は今回の紹介してきた動物園を観てきた中で若生の共通点について視線目線が明らかに徹底されていたというが若生もその通りだと語った。猿山といえば多くの動物園では深く掘られた中にあるがそれだと観客たちが猿を見下ろす視線になる。見下ろすことは動物に対して見下す視線が生んでいたのではという大きな反省があったと語り、空間的な位置関係が動物や人間の意識を決めているというが見上げる展示に命への深い尊敬がある。
「新美の巨人たち」の次回予告。
「スポーツ リアライブ」の番組宣伝。