2023年11月1日放送 23:50 - 0:35 NHK総合

映像の世紀バタフライエフェクト
「9.11 同時多発テロへの点と線」

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(オープニング)
今回は…

1983年、NYの人々は「スパイダーマン」に釘付けになっていた。高さ417mの超高層ビル、ワールドトレードセンターによじ登る彼の姿を見上げていた人々。それから20年後の2001年9月11日。人々は再びそのビルを見上げることになる。3000人の命が失われた9.11同時多発テロである。標的となったワールドトレードセンターの建設を推し進めたのは石油王・ロックフェラー財閥。80年前、石油を求めてサウジアラビア王家と親密な関係を築いたアメリカ。その関係は砂漠の国に富と亀裂をもたらし、やがて巨大な憎悪としてNYに姿を現した。今回は偶然と必然が交錯し、巨大な悲劇へと至る連鎖の物語。

キーワード
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オープニング

オープニング映像。

(映像の世紀 バタフライエフェクト)
9.11 同時多発テロへの点と線

1929年、世界恐慌に見舞われたNYにある超高層ビルが現れた。大恐慌によって揺らいだ資本主義の優位性を示すため、ロックフェラー・ジュニアが建設したロックフェラーセンターである。ロックフェラー家の初代当主、ジョン・ロックフェラーは新時代のエネルギー源として注目されていた石油の精製を行う「スタンダード石油」を設立し、同業他社を蹴落として全米の石油需要の90%を独占することで全米一の大富豪に成り上がった男だった。彼が設立したスタンダード石油は1930年代、建国されたばかりの貧しい砂漠の国・サウジアラビアに注目する。1938年、スタンダード石油はサウジアラビアに巨大な油田を発見し、これを契機として各国は一斉にサウジの石油資源に期待を寄せた。石油の独占を狙うアメリカは大統領のルーズベルト自ら会談し、オイルマネーと将来的な油田施設の譲渡と引き換えに石油資源の開発独占権を勝ち取った。こうして流れ込んだ巨額のオイルマネーは砂漠の国を激変させ、サウジはアメリカと変わらぬ豊かな暮らしを手にした。

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サウジに巻き起こった空前の建設ラッシュは、若者たちに多くのチャンスをもたらすことになる。日系アメリカ人の建築家であったミノル・ヤマサキは空港や政府施設の設計で名を上げ、建設会社を営んでいたイエメン生まれの移民、ムハンマド・ビンラディンは自身の会社をサウジ有数の財閥に育て上げた。敬虔なイスラム教徒であったムハンマドは国王に寵愛され、多くの子宝に恵まれた。彼の17番目の子供、オサマ・ビンラディンは兄弟の中でも一際信仰心の篤い真面目な性格だった。

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1958年、ロックフェラー家は新たなビルの建設に着手する。NYの古い通りを壊し、資本主義の中心地に建てられることになった2棟の超高層ビルは、ロックフェラー家の理念である「World Peace through Trade(自由貿易による世界平和)」から「ワールドトレードセンター」と名付けられた。計画はロックフェラー家のメンバーであるNY州知事のネルソン・ロックフェラーとチェース・マンハッタン銀行を率いるデイビッド・ロックフェラーの強力なバックアップを受け、地元住民の反発を抑え込みながら進んでいく。ビルの設計はサウジでの活躍により名声を高めていたミノル・ヤマサキが担当し、ロックフェラー家の理念でもある「世界平和」への想いを込めてサウジ時代に親しんだイスラム建築の様式を取り入れながらデザインした。一方で、空前の超高層ビルには人々の間から「飛行機が衝突するのではないか」との不安も寄せられた。そこで、ヤマサキは当時最新鋭のジェット機であったボーイング707の衝突にも耐えられるように耐力壁を使用し、壁全体でビルを支える設計を考案。「たとえ複数の飛行機が衝突しても耐えられる」と呼ばれるほど頑健な構造を実現し、双子のビルはそれぞれ1970年と72年に完成。巨大な姿でNYに君臨した。

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その頃、サウジアラビアではサウード王家に反乱するテロ事件が発生する。イスラム原理主義を掲げる実行犯達は、イスラムの聖地を守護すべき王家が異教徒であるアメリカとの利権にまみれていることを激しく糾弾した。サウジ王家はこうした批判を交わすべく、1979年に巻き起こったソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻を利用する。「敬虔なイスラムの同胞を共産主義から救う」大々的なキャンペーンを打ち、イスラム原理主義を信仰する若者たちは義勇兵として次々に戦場へと向かった。東西冷戦によりソビエト連邦と対立していたアメリカもこの動きを利用し、CIAによる軍事訓練を実施するなど強力な支援を行う。アメリカで英雄と称えられたイスラム義勇兵の中には、オサマ・ビンラディンの姿もあった。アフガニスタン侵攻はソ連の撤退により幕を閉じたものの、帰国したオサマは祖国をのし歩く異教徒・アメリカの軍隊を目にする。当時のサウジには湾岸戦争に伴い多数のアメリカ軍が駐留しており、敬虔なイスラム教徒であったオサマは特別な地を我が物顔でのし歩くアメリカ人達を激しく憎悪する。それから程なくして、オサマは表舞台から姿を消した。

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1993年、NYでは一つのテロ事件が発生する。イスラム原理主義者がワールドトレードセンターの倒壊を狙い、地下駐車場で爆弾が炸裂させたのだ。この事件の影にオサマ・ビンラディンが潜んでいると睨んだFBIの捜査官、パトリック・オニールは必ず次の攻撃があると予測。FBIは行方をくらませたビンラディンを捜索して回ったが、アフガニスタン侵攻時代にアメリカが築いた秘密の拠点を転々としていた彼を捕まえることは困難を極め、組織に失望したオニールはFBIを退職。オニールはワールドトレードセンターの警備責任者として再就職し、ビンラディンのテロに1人で立ち向かうことを決意する。彼が着任したのは2001年8月23日のことだった。

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2001年9月11日、NYはいつもと変わらぬ静かな朝を迎えていた。その景色を一変させたのは午前8時24分、航空管制官が捉えたアメリカン航空11便の無線だった。機がハイジャックされたことを告げるテロリストの言葉から程なくして、8時46分には1機目が北棟に突入。テレビ局は放映を中止し緊急ニュースで惨状を伝えた。北棟96階に突入したのはかつてのボーイング707より遥かに巨大化したボーイング767で、漏れ出した燃料による火災はビルを支える耐力壁を破壊していった。警備責任者としてビルに詰めていたオニールはビル内の保育所から子供たちを避難させるべく奔走していたが、9時3分には南棟81階に2機目が突入。子供たちを避難させたオニールは南棟に飛び込み、救助を開始する。オニールは恋人に電話で「私は大丈夫だ、またかけるよ」と言い残したが、それが彼の最後の言葉となる。衝突から56分後に南棟は崩壊し、それから29分後には北棟も崩れ落ちた。かつて建設を推し進めたデイビッド・ロックフェラーでさえ、双子のビルが灰燼に帰す様をロックフェラーセンター56階のオフィスから眺めることしかできなかった。ジョン・オニールを含む2977人の命を奪い、6000人以上の負傷者を出した同時多発テロ。それから10年後の2011年、アメリカはオサマ・ビンラディンを殺害。2019年にはオサマの息子でアルカイダの幹部のハムザ・ビンラディンも殺害したが、アルカイダは現在も活動を続けている。デイビッド・ロックフェラーは新たなワールドトレードセンターが建設されるのを見届け、2017年に死去している。

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ミノル・ヤマサキの息子、タロー・ヤマサキは報道写真家となり、同時多発テロの遺族や紛争地で暮らす人々の姿を撮影し続けている。9.11の直後、ビルの跡地を訪れたタローは瓦礫と化した父の建築を前に次の言葉を残している。「父は世界平和を願ってあのビルをデザインしました。その精神は今も死んでおらず、世界平和とは何か、誰のための平和なのかを問い続けているように想います」。

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(エンディング)
エンディング

エンディング映像。

次回予告

映像の世紀 バタフライエフェクトの次回予告。

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