2024年2月21日放送 23:50 - 0:35 NHK総合

映像の世紀バタフライエフェクト
石油 世界を動かした“血”の百年

出演者
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(オープニング)
今回は…

19世紀半ば、アメリカ北部で発見された巨大な油田。人類が史上初めて大規模な採掘に成功した「燃える水」はジョン・D・ロックフェラーの手により世界的なエネルギーへとのし上がっていく。石炭に代わる新たな動力源となった石油は人々の生活を一変させ、世界は石油なしでは動かなくなった。その一滴は世界を動かす原動力となり、太平洋戦争を巻き起こし、中東に争いの種を生み出していく。今回は、影の支配者として20世紀を動かした「燃える黒い水」の物語。

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オープニング

オープニング映像。

(映像の世紀 バタフライエフェクト)
石油 世界を動かした“血”の百年

1908年。アメリカの飛行家・ライト兄弟のニュースをあるイギリスの若者が眺めていた。彼の名はウィンストン・チャーチル。「将来の戦いでは飛行機が重要になる」と直感したチャーチルは、自ら操縦桿を握って大空へと飛び立つほど飛行機の虜になった。それから3年後、36歳で海軍大臣に任命されたチャーチルは、その先見性を活かしてイギリス海軍の大改革に着手。イギリス海軍と建艦競争を繰り広げていたドイツ帝国海軍を圧倒するため、軍艦の燃料をすべて石油化することを決める。軍艦の燃料を石油化するには豊富な石油資源の確保が必要となるが、当時のイギリスは国内で石油を産出していなかった。そこで、チャーチルは1908年に巨大な油田が発見された中東の国・ペルシャに目をつける。チャーチルの提案は1914年6月に承認され、イギリスはペルシャの油田を獲得した。

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イギリスがペルシャの油田を確保してから1ヶ月後に勃発した第一次世界大戦は、石油の力を世界に示すものとなった。石油化されたイギリス海軍の戦艦はこれまでにない速さで航行できるようになり、ドイツ帝国海軍を圧倒。石油の力によって一変したのは海戦だけに留まらず、陸上ではガソリンエンジンで塹壕や鉄条網を突破する新兵器・戦車が登場。空の上ではチャーチルの目論見通りに飛行機が飛び交い、戦闘を繰り広げる。こうした生まれた新たな戦争の中で、石油は必要不可欠な物資となった。

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第一次世界大戦が集結すると、戦乱で疲弊したヨーロッパに代わってアメリカが世界経済を牽引する存在となった。大量生産される自動車は庶民の間で爆発的に普及し、さらなる好景気を生み出していく。だが、その繁栄に飽き飽きしていた若者もいた。若き日のドワイト・D ・アイゼンハワーである。陸軍大尉だったアイゼンハワーは退屈しのぎに軍用トラックでアメリカ大陸を横断するキャラバン隊に参加するが、未だ舗装されていない道路に苦しめられた。このキャラバン隊の苦心を機にアメリカ国内では道路整備を求める機運が高まり、各地で道路の舗装が進められた。それに伴って自動車はさらに普及し、ガソリンの消費量も増大。石油需要は急激に増加していったが、次々に発見された大油田はそれを補って余りあるほどだった。そのため、アメリカは消費しきれなくなった石油を輸出するようになる。最も大きな輸出先は、太平洋の向こう側にある日本だった。

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1937年に日中戦争が勃発すると、アメリカの石油は日本軍の燃料となった。日本がアメリカの石油を使って罪のない人々を殺戮していることに対してアメリカ国内では非難の声が高まり、日本への石油禁輸を求める世論が持ち上がった。当時の大統領、フランクリン・ルーズベルトは石油の全面禁輸は日本との戦争に繋がりかねないと危惧していたが、内務長官のハロルド・イケスは石油禁輸を強硬に主張。ホワイトハウスでは両者が激しい論戦を展開するが、その矢先に日本軍はフランス領インドシナへと進駐。この南部仏印進駐がきっかけとなり、ルーズベルトは日本への石油全面禁輸を決定した。

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1941年12月8日、日本軍はハワイ・オアフ島の真珠湾を奇襲攻撃する。真珠湾のアメリカ海軍基地には太平洋艦隊の燃料も豊富に貯蔵されており、石油タンクを攻撃すればアメリカ海軍の戦力を削ぐこともできたが、日本軍は「タンクへの攻撃は下司の戦法」として石油タンクへの攻撃を避けて軍艦や航空機のみを破壊した。この奇襲によりアメリカ海軍が混乱に陥っている隙をつき、日本軍はオランダ領東インドのパレンバンを占領。1942年には東南アジア油田地帯の大半を接収し、日本は莫大な石油備蓄を手にした。これに対し、アメリカは100隻以上の潜水艦や大量の航空機を東南アジアに送り込んで反撃を開始。東南アジアから日本へ石油を運ぶタンカーを次々に狙い撃ちする戦法でアメリカは日本への燃料供給を遮断し、東南アジアや国内の石油施設も次々に破壊していった。これより日本の石油備蓄は開戦前の4%にまで落ち込み、軍艦や飛行機も燃料不足により出撃できなくなってしまう。石油を求めて開戦した日本は、石油不足によって敗北したのである。

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第二次世界大戦集結が目前に迫ると、勝利を確信した米英は戦後の資源獲得に向けて動き出した。米英の興味が向けられたのは、1938年に世界最大規模の巨大な油田が発見されたサウジアラビア。この地に眠る莫大な石油の採掘権をどこが手にするのかを決めるのは、群雄割拠のアラビア半島を平定した屈強な戦士、イブン・サウード国王。ルーズベルトはヤルタ会談直後にサウード国王との会談を取り付け、礼を尽くした態度で国王を饗した。これが功を奏し、アメリカは巨額のオイルマネー、そして将来的な採掘施設の譲渡と引き換えにサウジアラビアの莫大な石油利権を確保することに成功。出遅れたチャーチルもロールスロイスや香水をサウード国王に献上して交渉に臨んだが、尊大な態度が国王の不興を買い石油利権を得ることは出来なかった。

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アメリカのオイルマネーによってサウジアラビアは急速な近代化を遂げ、貧しい砂漠の国は豊かな楽園へと生まれ変わった。しかし、当時の石油価格は欧米の石油メジャーによって一方的に決められており、原油価格は1バレル1ドル台に抑えられていた。安価な中東の石油を手にしたアメリカでは石油を湯水の如く消費する大量生産・大量消費の時代が到来し、空前の繁栄を謳歌する。しかし、中東では欧米の石油メジャーが不当に安く石油を買い叩いている現状に対する不満が高まりつつあった。サウジアラビアの石油相、アハマド・ザキ・ヤマニは下がり続ける石油の公示価格に危機感を抱き、1960年に主要産油国5ヶ国と共にOPECを結成。OPECは欧米の石油メジャーと価格交渉を行い、1971年には1バレルあたりの価格を2.18ドルとすることで合意が成立。これにより、石油メジャーと中東諸国の力関係は徐々に逆転しはじめる。

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OPECの中心的存在となっていたサウジアラビアは、サウード国王に代わって息子のファイサル国王によって率いられるようになっていた。聖地・パレスチナを巡って中東でユダヤ人とアラブ人の対立が激化する中、ファイサル国王はユダヤ人国家のイスラエルを支援するアメリカへの不信感を高めていく。1973年、イスラエルに対する財政援助を続けていたアメリカに対し、ファイサル国王は「ユダヤ人国家への支援を継続するのならば、米国に対する石油供給と友好関係の維持は難しくなる」と警告を発表。しかし、アメリカはファイサル国王の警告から1ヶ月後に勃発した第四次中東戦争でもイスラエルに武器を供給し、支援を継続。これを受けてOPECは原油価格を一気に70%値上げし、アメリカを含む5ヶ国に対する禁輸を実施するという強硬策に踏み切った。こうして始まった第一次石油ショックは世界中に大混乱をもたらし、アメリカ国民たちは湯水のように使っていたガソリンがどこから来ていたのかを思い知った。

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1991年、中東では再び戦争が勃発した。イラクのサダム・フセインが油田の確保を狙って隣国のクウェートに侵攻したことに端を発する湾岸戦争である。アメリカ率いる多国籍軍はクウェートからの撤退を求めてイラク軍と激戦を繰り広げたが、その様を目にしていたサウジアラビアの石油相、アハマド・ザキ・ヤマニは冷ややかな視線で見つめていた。「クウェートがアフリカの小国だったら、石油資源のないただの小国だったら、アメリカはやって来ただろうか?湾岸戦争が起こったのは石油のためだった。アメリカ軍が多国籍軍とやって来たのも、同じく石油のためだった。われわれは石油ではなく、水を発見していれば良かったのだ……」。

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大規模な油田の発見から100年以上を経ても尚、人類は石油を求めて極地から海底まであらゆる場所を掘り続けている。だが、石油を燃やして発生する二酸化炭素が地球温暖化の原因だと突き止めた人類は、20世紀末から新たなエネルギー源の開発に向けて動き出した。それでも尚、世界のエネルギーの主役が石油であることは未だに揺るがない。燃える黒い水に翻弄された”石油の世紀”を振り返り、ダニエル・ヤーギンは次のように記している。「石油は、様々な意味で20世紀の支配者であった。その用途、生産、支配権争いなどを通して、現代の世界と生活の形を決定づけた。どこに住めるか、いかなる生活ができるか、どんな旅行が可能か。そのすべては、石油によって決まるのだ」。

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(エンディング)
エンディング

エンディング映像。

次回予告

映像の世紀 バタフライエフェクトの次回予告。

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