大王町波切地区の海辺で、煙が漂う小屋を見つけた。その煙をたどってみると、小屋の奥にいくつものかまどが並んでいた。波切は味の良いかつお節の産地で、江戸時代からかまどでかつお節を作っている。毎日1時間燻し、この作業を一ヶ月繰り返し乾燥させる。出来栄えの決め手は薪。近くの森で取れるウバメガシの薪は火力が強く、日持ちが良いのが特徴で、かつお節作りによく適している。森と海の恵、職人の技がかつお節を作り出している。森と海のつながりは志摩の漁業にも生きている。この地方の漁師は、森がもたらすミネラルなどが海を豊かにし、魚を増やすと考えてきた。その多くは一年中はが落ちない照葉樹林。ウバメガシもこの照葉樹林で育つ樹の一種だ。潮風や乾燥に強く、痩せた土地でもよく育つ丈夫なウバメガシは、燃料として重宝されてきた。備長炭の材料もウバメガシである。山路治さんは志摩を中心に林業を営んでいる。向かった先はウバメガシが生い茂る森。ウバメガシが密集し他の植物はほとんど生えず、木の成長も悪く荒れた森だが、山路さんはそんな森のウバメガシを選んで切っていく。「ウバメガシの樹が朽ち果ててく前に、山を整理して使えるものを使う。僕らは先祖代々百何十年という形で樹を触らせてもらっているので、切れるところは切って整理しなくてはいけない」と山路さんは語った。露になった山肌は、一見すると乱暴に切られたようにも見えるが、しっかりと切り株を残すことで新芽がまた生え、そこには再び森が出来る。切り株から新芽が生い茂り草原のようになったそこには、様々な虫達が集まり、以前の荒れた状態の森よりも命の多様性が豊かになっていく。森の縁に野鳥たちが集まってきた。鳥の目当ては、食べ物になる植物の実や虫など。初夏には夏鳥も渡ってきて、森は一層豊かになる。海と森と人の暮らしが繋がり合い、美しい里山が受け継がれていく。