鉄は、農薬や従来の肥料とは異なる植物の成長を助ける力があるということで、今、農業関係者の注目を集めている。その力をビジネスにつなげようという、愛知県の鉄鋼メーカーの動きを取材した。三重・木曽岬町にあるトマト農家では、鉄鋼メーカーが開発した鉄分を含んだ農業資材を使用している。このメーカーが農業資材の開発を始めたのはおよそ20年前。リサイクルで生まれる鉄の粉の活用の研究を始めたことがきっかけだった。植物は土壌の鉄分を吸収しづらくなる鉄欠乏になると、葉が白っぽくなり光合成が十分にできず、成長に影響が出る。そこで、植物が吸収しやすくなるよう、さまざまな熱処理をして土壌にまいたところ、収穫量に大きな効果が見られた。今進めているのが、土壌肥料学の研究者と共同研究をし、海外の農業問題を解決しようという試み。世界有数のオレンジの産地・ブラジルでは、気候変動やカンキツグリーニング病の影響で深刻な不作となり、日本でも一部のオレンジジュースが販売休止になるなど影響が広がっている。研究者は、この病気に感染した葉に鉄欠乏に似た症状が出ることに注目。米国フロリダ州で、病気にかかった2本の木で実験を行ったところ、鉄の供給材をまいた木は2年半後、何もしなかった木に比べ収穫量が70%多くなった。米国以外の国での実証実験を進め、世界での販売を目指している。さらに鉄鋼メーカーでは、砂漠のような栽培に不向きな土壌でも作物が育ちやすくなる研究を続けている。より植物が吸収しやすい農業資材を生み出し、鉄の力を世界の食糧増産につなげたいと考えている。