未知の階級でいきなり出会ってしまった最大の壁。スーパーバンタム級でデビューし、10年間負けなし、階級の顔ともいえる絶対王者・フルトン。一方、約7キロ下のライトフライ級でキャリアをスタートさせた井上尚弥。半年前の米国合宿では、この階級の圧力を肌で感じていた。果たしてモンスターはスーパーバンタム級で通用するのか。階級の壁を越えるために、しかしそこには予期せぬ落とし穴が潜んでいた。これまでにないハードな打ち込み。だが、あまりにも強いパンチは時に己の拳にも深いダメージを与える。拳を負傷した状態でのスパーリング。その表情は険しかった。ケガから2カ月、スパーリングを再開。仮想フルトンへ、その鍵を握る男がやって来ていた。米国から呼び寄せたスパーリングパートナーは、フルトンと身長やリーチはほぼ同じ。1つ上のフェザー級で世界チャンピオンを目指す若き逸材。1週間26ラウンドに上るスパーリングの中で、井上はあるパンチを完成させつつあった。井上が対フルトン用に編み出したパンチが、ボディーへのジャブ。この試合、フルトンへ放ったボディーへのジャブは45発。8ラウンド、ボディーへのジャブでガードが下がった瞬間。