こうした状況を一変させたのが、2019年に発足した現政権によるギャング撲滅作戦。日が暮れたところだが、軍による治安維持のオペレーションが始まった。政府は治安対策を最優先課題に、軍隊や武装した警察官をギャングの取り締まりに投入。特に成果を挙げているのが例外的な位置づけで導入された超法規的措置。ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっている。強権的な措置は功を奏したのか、世界最悪だった殺人事件の発生率は、劇的に改善。僅か数年のうちに中南米で最も安全な国と言われるまでになった。元ギャングが収容される中米エルサルバドルの巨大刑務所を取材。今街からギャングの姿は消え、平穏を取り戻した。国民の多くは政府を支持しているが、なりふり構わぬ治安対策の負の側面も表面化している。ドゥランロドリゲスさん。ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が去年、刑務所で死亡した。ロドリゲスさんによると、ある晩、匿名の通報を受けた警察が突然家にやってきて、息子を逮捕した。「拳銃を持っているはずだ」と捜索を受けたが結局銃は見つからなかった。しかし息子はそのまま刑務所で亡くなり、当局からも詳しい説明などはないという。こうした冤罪を訴える人がエルサルバドル全土で続出していて、国際社会からも非難の声が上がっている。地元の専門家は、政府がギャング対策の名の下に人権侵害を正当化していると指摘する。国民の安全を守るためには一定の人権侵害はやむをえないのか。例外的な超法規的措置はいつまで続くのか。私たちは政府の責任者を訪ねた。政府は、法律は遵守していくとする一方、国民からの支持を背景にギャング撲滅作戦に変更はないという方針で巨大刑務所の受刑者は当分増え続ける見通し。