タイの首都バンコクに広がる巨大スラム。いま再開発に伴う立ち退きを迫られている。その住民の数は約10万人ともいわれる。アジアの各都市では経済発展に伴いスラムが次々に姿を消そうとしている。しかし、貧しい住民たちが仕事や生活の基盤を失うことなく再開発を進めるにはどうすればいいのか。この問題にあるタイ人と日本人の夫婦が取り組んでいる。バンコクのクロントイ・スラム。政府は港湾で働く労働者を大勢集めたが、住まいは用意されず、港湾公社の土地に人々が無断で住み着いた。線路スレスレまで建てられた家。住民たちを長年支援し続けてきた夫婦。このスラムで生まれ育ったプラティープ・ウンソンタム・秦さん。プラティープさんは50年以上前に子どもたちのために小さな学校を始めた。貧しさや住民登録がないために学校に通えない子どもが大勢いた。子どもたちに救いの手を差し伸べるその姿から“スラムの天使”と呼ばれた。活動は認められ、26歳の若さでアジアのノーベル賞ともいわれるマグサイサイ賞を受賞した。プラティープさんに寄り添ってきたのが日本人の夫の秦辰也さん。24歳のとき、難民支援のボランティアとしてタイへ渡り、プラティープさんに出会い、その後結婚した。世界各地でボランティア活動をしてきた辰也さん。その知見や人脈を生かし、プラティープさんが支援活動のために立ち上げた財団を共に運営してきた。財団の活動は教育の普及から犯罪防止、高齢者支援まで多岐にわたる。政府は2019年、クロントイ地域一体の再開発を発表。新たな港や商業施設、高層住宅街を作る大プロジェクト。住民には立ち退きに対する補償が提示された。近隣の集合住宅に移転か、新たな土地へ移転、あるいは現金給付の一つを選ぶものだった。しかし、対象者の範囲は示されなかった。住民からは反対の声が相次いだ。夫婦は住民たちとともに移転計画を立てた。プラティープさんと住民は新たに作業グループを立ち上げた。
