能登半島北西部にある石川・輪島市の黒島地区。江戸時代以降に北前船の船主や船頭が多く住んだ集落で、黒瓦や板壁の美しい景観が特徴だった。それが元日の能登半島地震で一変。建物の4割が全半壊した。国の重要文化財「旧角海家住宅」も倒壊し、原形をとどめていない。町並みの保存に取り組んできた住民も、大きなショックを受けている。この地区に住む60代の男性は、自宅が半壊して住めなくなった。男性は2007年の能登半島地震でも被災。住宅の再建などで抱えた借金の返済を終えた矢先に、再び地震に見舞われた。ほかの住民も多くが被災し、同じ景観を取り戻すのは難しいと考えている。黒島地区は17年前の地震で最も大きな被害が出た地域。当時、建物の3割以上が全半壊。住民たちが復興を進め統一的な景観を整備した結果、2009年に「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれたが、今回の地震でそれを上回る被害が出た。黒島地区の将来はどうなるのか。住民の不安が募る中、先月28日に輪島市が初めて説明会を開催。多くの住民が避難先から戻って出席した。議論になったのが「重伝建」ならではの難しさ。個人の住宅とはいえ、建物の修繕や解体には専門家の調査や行政の許可が必要。さらに、住まいも兼ねる伝統的な建造物は建材や工法も限られるため、大規模に修繕し耐震化も行うと数千万円かかる。最大80%の補助を受けられる制度はあるが、上限が1000万円のため、住民からは支援の拡充を求める意見が相次いだ。このままでは再建を諦め、地区を去る住民が増えると懸念する声も聞かれた。市の担当者は、補助の上限の引き上げを検討するとして、段階的な復旧に理解を求めた。未曽有の大災害に襲われた黒島地区。歴史的な町並みの保存は岐路に立たされている。歴史を感じさせる町並みは地元の観光資源になり、地区の人たちも愛着を感じているが、被災者である住民の負担が大きくなれば肝心の生活再建が遠のく。輪島市は住民の負担が少なくなるように、修繕費の補助率や上限の引き上げに向けて、国などと協議を進めているという。