ホフの研究スタイルは自然体である。客として商店街に溶け込みながら研究を続ける。この日やって来たのは東京・世田谷区の梅丘商店街。小田急線梅ヶ丘駅開業とともに発展し、駅前通り・仲通り・本通りの3つの通りに店舗が連なりその数はおよそ200店である。沢山歩かなくても欲しいものが揃うという買い物のしやすさが自慢だがホフが注目するのは日本の商店街に見られるカオスぶりだという。商店街によって街灯のデザインも様々で同じ通りでも違うことがあり、この統一感のなさにカオスを感じるという。ホフの学問分野は文化人類学。ある地域に入り込み、人々の営みを調査・観察することでその地域の文化や社会の仕組みを理解する学問である。商店街の中に「宗教施設」があることは来日したホフを驚かせた。日本の商店街をカオス・混沌とした場所と指摘するホフ。それには理由があるという。カナダで生まれ育ったホフは町の郊外に週に1度は行くショッピングセンターがあった。200店舗以上が東京ドーム2個分以上の敷地に並ぶ。テナント料が高額なため、ある程度の収益を見込める人気チェーン店が中心となって出店をしている。日本でも1969年に大きな駐車場を持つ本格的な郊外型ショッピングセンターがオープンした。1990年代、政府により大型店出店の自由化が進められ数が急増。車社会の広がりとともに天候に左右されない快適さから人気を呼ぶ。しかしホフは快適さと引き換えに失っているものがあると指摘する。ショッピングセンターでの買い物が当たり前だったホフにとって日本に来て初めて見た商店街は全てが新鮮だった。
ホフが特に注目している商店街は東京・世田谷区下北沢である。小田急線と京王井の頭線が通り、6つの商店街で構成されている。ショッピングモールを超え、758店舗が軒を連ねる巨大な商店街で平日でも2万人以上が訪れている。元々農村だった下北沢は昭和2年の小田急線開通を機に商店街が形成された。空襲も比較的少なく、戦後は駅前にできた闇市とともに商店街は賑わい続けた。70年代から80年代にかけては劇場やライブハウスが建ち始め、サブカルチャーの街に変化。さらに近くに大学のキャンパスができ、若者の街として古着屋・雑貨屋・カフェなどの店が増えていった。都市化が最も進んだ東京でなぜ商店街が維持できるのか。その鍵としてホフが注目するのが店が打ち出す独特の個性である。一見、構えたところのない外観の店も商店街では個性になる。前から気になって何回か店を覗いているというホフは商店街に経営しようと思ったかについて店主に聞いていった。個性的な店こそ商店街の魅力の象徴だというホフ。次に訪ねたのは下北沢の商店街振興組合の理事長。話を聞き「商店街には自由性がある」「カオスの状態でうまくバランスをとるのが商店街」などとわかった。次に訪ねるのは商店街のはずれにある創業94年の酒屋でクラフトビール専門店として営業していた。この店の先代は商店街振興組合に参加していなかったが、自分たちの代で参加したとのこと。商店街は入るのもやめるのも自由でこの緩やかな関係性を保てるのが日本らしさであり、カナダのショッピングセンターとの大きな違いだという。
ショッピングセンターはきっちりしており、それはどういうことかホフが説明を始めた。ホフが書いたのはショッピングセンターの形成要素と力関係。利害関係者“ステークホルダー”が存在し、互いに影響を与え合っているという。ショッピングセンターにはステークホルダーとしてマネージメント会社・小規模店・大規模店・顧客・住民・自治体が並ぶ。マネージメント会社がトップダウンでショッピングセンターの運営を取り仕切っている。対して日本の商店街のステークホルダーは店舗・顧客・住民・自治体以外に組合・銀行・学校・宗教施設と数多くのステークホルダーが並列的に関わっているという。カオスのように見えて民主的で平等な関係でありそれぞれが統一感なく自由にやっていながらも巨大な商業地域を維持している。ホフのカジュアルで自然体なアプローチから読み解いた日本の商店街の特殊性である。30年以上、日本や海外の地域社会を研究してきた石見豊教授もホフの研究を評価する。
この日ホフは京都で開催される学会を訪れていた。マンガ・アニメ・ゲームなどアジアのポップカルチャーの研究を発表する学会である。2001年からアメリカ・韓国・日本と3か国で開催。日本での開催を長年仕切ってきたのがホフで研究者からの信頼も厚い。カナダ・バンクーバーの出身で身近に日系コミュニティが多く幼少期から日系人に興味を持っていたホフ。日系人のルーツを研究するため26歳で来日し、研究の転機になったのが名古屋の大須商店街で行われた「世界コスプレサミット」。通訳としてこのイベントに関わり、今まで見たことのない光景に衝撃を受けたという。その後20年に渡り、商店街とポッポカルチャーの2つの軸足をもって研究してきたホフ。来年日本で出版予定の論文にはコスプレで世界的に有名になった大須商店街を取り上げた。論文では日本の商店街は買い物をするという限定的なものではなく、文化的な場所であることにも注目。だからこそコスプレイベントの舞台として商店街が選ばれたと考察している。
東京・足立区北千住もホフが気になっている街である。大型ショッピングセンターが2つありその周辺には9つの商店街があり、450店舗以上がひしめく。中でも旧日光街道沿いの商店街にホフは注目した。日光街道第1の宿場町として今年400年を迎え、ホフが歩いているのは宿場の中心地となった場所である。しかしショッピングセンターの影響かお客さんが少ないのではないかとのこと。シャッターが閉まっていることよりも描かれている歴史と伝統に注目するのがホフ。入ったのは観光案内所であった。道路の拡張や鉄道を敷設し戦争など様々な要因から商店街は変化し続けてきたという。変化し続ける街の中で8年前に出店したある飲食店が気になり商店街の真ん中にあるレトロポップな雰囲気の喫茶店へ。話を聞くと店の個性を強く押し出すことでショッピングモールに負けない商店街を模索する店主がここにもいた。夜6時を過ぎると商店街に活気が出てきて飲食店を訪れる客がやって来た。文化人類学者エドマンド・ホフの前にはまだまだ未知の商店街が広がっている。
ホフが特に注目している商店街は東京・世田谷区下北沢である。小田急線と京王井の頭線が通り、6つの商店街で構成されている。ショッピングモールを超え、758店舗が軒を連ねる巨大な商店街で平日でも2万人以上が訪れている。元々農村だった下北沢は昭和2年の小田急線開通を機に商店街が形成された。空襲も比較的少なく、戦後は駅前にできた闇市とともに商店街は賑わい続けた。70年代から80年代にかけては劇場やライブハウスが建ち始め、サブカルチャーの街に変化。さらに近くに大学のキャンパスができ、若者の街として古着屋・雑貨屋・カフェなどの店が増えていった。都市化が最も進んだ東京でなぜ商店街が維持できるのか。その鍵としてホフが注目するのが店が打ち出す独特の個性である。一見、構えたところのない外観の店も商店街では個性になる。前から気になって何回か店を覗いているというホフは商店街に経営しようと思ったかについて店主に聞いていった。個性的な店こそ商店街の魅力の象徴だというホフ。次に訪ねたのは下北沢の商店街振興組合の理事長。話を聞き「商店街には自由性がある」「カオスの状態でうまくバランスをとるのが商店街」などとわかった。次に訪ねるのは商店街のはずれにある創業94年の酒屋でクラフトビール専門店として営業していた。この店の先代は商店街振興組合に参加していなかったが、自分たちの代で参加したとのこと。商店街は入るのもやめるのも自由でこの緩やかな関係性を保てるのが日本らしさであり、カナダのショッピングセンターとの大きな違いだという。
ショッピングセンターはきっちりしており、それはどういうことかホフが説明を始めた。ホフが書いたのはショッピングセンターの形成要素と力関係。利害関係者“ステークホルダー”が存在し、互いに影響を与え合っているという。ショッピングセンターにはステークホルダーとしてマネージメント会社・小規模店・大規模店・顧客・住民・自治体が並ぶ。マネージメント会社がトップダウンでショッピングセンターの運営を取り仕切っている。対して日本の商店街のステークホルダーは店舗・顧客・住民・自治体以外に組合・銀行・学校・宗教施設と数多くのステークホルダーが並列的に関わっているという。カオスのように見えて民主的で平等な関係でありそれぞれが統一感なく自由にやっていながらも巨大な商業地域を維持している。ホフのカジュアルで自然体なアプローチから読み解いた日本の商店街の特殊性である。30年以上、日本や海外の地域社会を研究してきた石見豊教授もホフの研究を評価する。
この日ホフは京都で開催される学会を訪れていた。マンガ・アニメ・ゲームなどアジアのポップカルチャーの研究を発表する学会である。2001年からアメリカ・韓国・日本と3か国で開催。日本での開催を長年仕切ってきたのがホフで研究者からの信頼も厚い。カナダ・バンクーバーの出身で身近に日系コミュニティが多く幼少期から日系人に興味を持っていたホフ。日系人のルーツを研究するため26歳で来日し、研究の転機になったのが名古屋の大須商店街で行われた「世界コスプレサミット」。通訳としてこのイベントに関わり、今まで見たことのない光景に衝撃を受けたという。その後20年に渡り、商店街とポッポカルチャーの2つの軸足をもって研究してきたホフ。来年日本で出版予定の論文にはコスプレで世界的に有名になった大須商店街を取り上げた。論文では日本の商店街は買い物をするという限定的なものではなく、文化的な場所であることにも注目。だからこそコスプレイベントの舞台として商店街が選ばれたと考察している。
東京・足立区北千住もホフが気になっている街である。大型ショッピングセンターが2つありその周辺には9つの商店街があり、450店舗以上がひしめく。中でも旧日光街道沿いの商店街にホフは注目した。日光街道第1の宿場町として今年400年を迎え、ホフが歩いているのは宿場の中心地となった場所である。しかしショッピングセンターの影響かお客さんが少ないのではないかとのこと。シャッターが閉まっていることよりも描かれている歴史と伝統に注目するのがホフ。入ったのは観光案内所であった。道路の拡張や鉄道を敷設し戦争など様々な要因から商店街は変化し続けてきたという。変化し続ける街の中で8年前に出店したある飲食店が気になり商店街の真ん中にあるレトロポップな雰囲気の喫茶店へ。話を聞くと店の個性を強く押し出すことでショッピングモールに負けない商店街を模索する店主がここにもいた。夜6時を過ぎると商店街に活気が出てきて飲食店を訪れる客がやって来た。文化人類学者エドマンド・ホフの前にはまだまだ未知の商店街が広がっている。
住所: 東京都足立区千住3
URL: http://www.senjujuku.com/
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