今回のNATO首脳会議は「トランプ大統領のためにあった」と言っても過言ではない。会議後に発表された首脳宣言の柱はわずか5つ。去年ワシントンで発表された前回の首脳宣言では38あったことと比べると大幅減少となった。最も注目されているのは「加盟国は国防費などの割合をGDPの5%に2035年までに引き上げること」で一致したこと。トランプ大統領は加盟国が費用を出し合って維持しているNATOで「アメリカの負担ばかりが大きく不公平だ」と述べ、かねてから加盟国に増額を求めてきた。ヨーロッパの加盟国にとってはロシアがウクライナ侵攻を始めて以降、ロシアが直接的な安全上の脅威となっている。その脅威に対峙するためには世界最強の軍事大国で核保有国であるアメリカの存在が不可欠。しかしトランプ大統領は「相応の負担をしない加盟国は防衛しない」という考えを述べていた他、ウクライナ情勢ではロシア寄りの立場も示してきた。こうしたことから国防費の負担増の要求はトランプ大統領をヨーロッパ側につなぎとめるために応えなくてはならないものだった。そしてロシアによるウクライナ侵攻については前回、ロシアを強く非難する文言がいくつも並んだのに対し、今回は「ロシアによるウクライナ侵攻」と言う文言さえも入らなかった。ロシアを「長期的な脅威」とした上で、ウクライナへの支援を再確認し、「ウクライナの安全保障は我々の安全保障に貢献する」としているが、ウクライナのNATO加盟に関しては記されていない。ウクライナのNATO加盟はプーチン大統領も最も嫌い、停戦の条件である「危機の根本的な原因の排除」の1つに「ウクライナがNATOに加わらないこと」が入っている。ロシアを非難し、ウクライナのNATO加盟に言及することは停戦の仲介を担おうとしているトランプ大統領の動きに水を差すこととなるため、それを避けて引き続きアメリカの関与を得ようとしたものとみられる。結果的にトランプ大統領は首脳会議を「歴史的な節目」と称賛。NATO加盟国としては短期的にはアメリカとの亀裂を避け、繋ぎ止めに成功した形。しかしロシアに対しヨーロッパとは異なる姿勢を示し、アメリカ第1主義を掲げるトランプ政権との相違が続く限り、ヨーロッパの加盟国はNATOの機能をいかに働かせるかという課題と向き合うこととなる。
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