先月、宮崎県で震度6弱の揺れを観測した地震によって、初めて発表された南海トラフ地震臨時情報。各地では、1週間にわたり、手探りの対応を求められた。発表から1か月が過ぎたきょう、自治体や企業、専門家から意見を聞くための会議が開かれた。きょう開かれたのは、南海トラフ巨大地震の国の作業部会。防災対策の推進地域を含む自治体の代表からは、ライフライン企業や交通機関など、業種ごとに対応の指針を策定することを国に求めるとともに、自治体が避難所を開設した場合の財政支援への提言が出された。国の作業部会で取りまとめ役を務める名古屋大学・福和伸夫名誉教授は「それぞれが当事者意識をもって対策してもらえるよう促していきたい」と述べた。初めての南海トラフ地震臨時情報に、自治体にはさまざまな課題が残った。夏のかき入れ時に町内の4つの海水浴場を閉鎖することを決めた和歌山・白浜町・大江康弘町長は、発表後NHKの取材に「苦渋。観光客や町民の安全をどう守るか、しっかり考えていこうと」と語っていた。なぜ難しかったのか。南海トラフ地震臨時情報は2種類あり、このうち巨大地震警戒は、想定震源域でマグニチュード8以上の地震が起きた場合に発表される。津波からの避難が明らかに間に合わない地域の住民は、1週間事前避難することなどの対応を求める。一方、今回発表された巨大地震注意では、日頃からの備えを再確認し、必要に応じて自主的に避難するとしている。そうした中、万が一の事態を想定し、すべての海水浴場の閉鎖に踏み切った和歌山・白浜町。観光が主力の町にとって、大きな痛手となった。宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、経済損失は5億円に上った。地元の旅館からは疑問も。臨時情報の対象地域でも、祭りを実施した自治体もあり、対応が分かれていたから。ただ白浜町では、過去の被害を考えると今後も同様の対応を取らざるをえないと考えている。白浜町・大江康弘町長は「国には対応の基準を示してほしい」と考えている。津波避難タワーがある高知県の沿岸部・四万十市では先月、自治体が市内全域に自主避難を呼びかけただが、住民への伝え方に課題を感じたという。今回の南海トラフ地震臨時情報の発表を受け、避難所を13か所開設。市内全域の住民を対象に、自主的な避難を呼びかけた。避難者が寝泊まりするためのマットなどの物資も急きょ運び込んだ。四万十市地域防災課・岡村郁弥主事は「1人も非難しなかった。住民の危機感を行政として危機感を伝えられなかった部分もある」と語った。四万十市には、南海トラフ地震が起きた場合、10分未満で高さ1mの津波が到達するとされる地域もある。ただ臨時情報の注意は、あくまで自主的に避難することが前提のため、どう呼びかけるべきか難しい対応を迫られたという。今回の課題を受けて、国の作業部会の委員を務める、災害情報が専門の東京大学大学院・関谷直也教授は「伝え方の改善に取り組むべき」と指摘し、「巨大地震注意という言葉も気象情報の注意報のように軽く受け取った場合もあれば、注意義務として、企業として非常に重いものだと受け取ったところもある。どういうことばをつかっていくべきか、今回の情報の出し方を踏まえ考察すべき」と述べた。関谷教授が最も課題だと感じたのは、「日頃からの地震の備えを再確認するというメッセージが伝わらなかったこと」。インターネット上で行ったアンケートを分析したところ、防災対策推進地域に住む人たちで、国が呼びかけた防災行動を取った人は、限られていたことが分かった。内閣府は今後、防災対策の推進地域に当たる自治体や事業者を対象にアンケート調査を実施し、必要な改善を進めるとしている。