小林幸一郎は去年55歳で現役を退くまで世界選手権4連覇を果たしたレジェンドである。クライミングに夢中の人生が一変したのは28歳の時。将来的に失明する病気を医師から宣告された。この先できなくなることを考えているときに、全盲でエヴェレスト登頂を果たした登山家エリック・ヴァイエンマイヤーを知った。アメリカまで行き、会って話を聞くと、エリック・ヴァイエンマイヤーは自宅近くの岩場で登ってみせた。この時、小林幸一郎は高い壁を乗り越える可能性に気がついた。何ができなくなるか、ではなく「何がやりたいか」である。できないことを考えるよりやりたいことを考えた方が人生は豊かになる。大好きなクライミングを楽しみ続けようと心に決めた。レジェンドは今、パラクライミングの普及に務めるとともに、かつて自分が気づいた壁の登り方を伝えている。