昭和のはじめに建てられた住宅の傑作の土浦亀城邸。日本の台所の多くが土間の炊事場で煮炊きをしていた時代に、この家のキッチンは驚くべき機能と美しさがあった。建築史研究家の田中さんは土浦亀城・信子夫妻の元を何度も訪ねて話を聞いていた。キッチンには引っ張り出せる台がついていてまな板になっている。肉や魚、野菜など使い分けられるように、4枚ある。棚も食器の大きさや種類によって、奥行きが高さをかえて収納がしやすいように。家事をする人の目線を取り入れた細やかな作りに。妻の信子が設計に加わっていたためでもあるという。更にお手伝いの部屋があり、アイロン台の形に壁をくり抜いた折りたたみ式アイロン台がある。雑誌でその快適さを語っていた。妻の信子は夫と机と並べライトから直に建築を学んでいたという。その信子の父は民主主義の大切さを唱えた政治学者の吉野作造。そんな父のもとで育った信子はアメリカでの豊かな暮らしが日本女性にも必要だと考えた。帰国後に多くの住宅を精力的に手掛け、いくつかの賞も受賞したしかし建築家にはなれなかったというが当時はまだ女性には参政権はなく、仕事もない時代だったためだという。
住所: 東京都港区南青山2-5-12