住み慣れた自宅を安値で買いたたかれるトラブルについて。不動産の知識が十分になかったり、判断能力に衰えが見られたりする高齢者が強引に勧誘され、住まいを失うケースまで起きている。80代の父親がトラブルに巻き込まれたという男性。30年以上前に購入したマンションで1人暮らしだった父親。去年、家族が知らない間に自宅を不動産業者に売却する契約が結ばれていた。父親が業者と交わしたのはリースバックと呼ばれる契約。マンションや戸建てなどの自宅を売却。代金を受け取り、それと同時に新たに賃貸借契約を結ぶ。固定資産税や修繕積立金の支払いがなくなり、まとまった老後の生活資金が手に入るうえ、住み慣れた家にそのまま住み続けられるというメリットがある。ところが父親が売却したマンションの価格は千数百万円。市場価格より約1000万円も安かった。毎月10万円以上の家賃を支払う契約になっていた。当時、物忘れが進んでいたという父親。自宅の売買契約書を見ると父親がサインしたのは業者の最初の訪問の数日後だった。男性は父親が業者から迫られ、内容を十分理解しないまま契約させられたのではないかと考えている。その後、認知症と診断された父親は自宅を離れて施設に入り今年、亡くなった。東京・新宿区の相談窓口。リースバックに関する相談が増えているという。昨年度寄せられた相談件数は東京都消費生活総合センターだけで113件。今年はそれを上回るペース。リースバックの仕組みを悪用。不動産の知識が十分ではない高齢者を強引に勧誘し、不当な安値で自宅を買いたたくケースが相次いでいるという。東京都消費者総合センター・高村淳子相談課長は「年金生活の苦しさもあり、一時的に金を手に入れ生活を立て直したいという人も多い。メリットだけを言って契約に持ち込むかたちが増えている」と語った。リースバックには他にも注意点が自宅を不動産業者に売却した場合、一定の期間であれば契約を解除できるクーリングオフは適用されない。解約する場合は多額の違約金を請求されることがある。さらに賃貸借の期間が限られているケースも多く、そのまま住み続けられる保証はない。高齢者の場合、いったん自宅を失うと次に住む場所が見つからなくなるおそれもある。高村相談課長は「事業者に話を聞いたとしても、その場ですぐ結審せず冷静に判断してほしい」と語った。トラブルが増える中、ことしリースバックが悪用された被害などに専門に取り組む弁護団が結成された。弁護団は自宅を売却したあとも住み続けているため、家族や周囲の人がトラブルに気付きにくいというリースバックならではの落とし穴があると指摘。不動産押買被害対策弁護団・加藤慶二弁護士は「自信は問題だと思っていない。表札は変わていないので、問題が顕在化しにくい」と語った。こうした中、第二東京弁護士会は法改正を求める意見書を国に提出。リースバックについてもクーリングオフの対象にすることや業者に買い取り価格の客観的な根拠を明らかにさせることなどを求めている。関心が高まりメリットもあるリースバックだが、トラブルの相談が多いのは80代で1人暮らしの人たち。国土交通省は家族などに事前に相談し、複数の事業者から売却価格の根拠や相場を聞くこと、自分の希望する期間住み続けられる契約なのか確認することなどを呼びかけている。