2月、看護師たちは院長に直接危機感を訴えた。院長は、フォローするのが難しいと訴えがあった一部の医師に救急医療から外れてもらうことを決めた。人手が足りない中で新たな欠員が生じることになり、佐々木さんがカバーに入った。佐々木さんは3年前に大学病院からこの病院に赴任し、故郷の地域医療に貢献したいと家族で移り住んだ。中学校の社会科見学で済生会江津総合病院を訪れたことがきっかけで医師を志したが、15年ぶりに見た病院は様変わりしていた。佐々木さんは過酷な勤務を続けるうちに、目指していた患者本位の医療が難しくなってきていると感じていた。病院ではこれまで非常勤の医師を雇うことで19の診療科を維持してきたが、物価や人件費の高騰による経営の悪化で限界が生じていた。2年前に常勤の外科医がいなくなったため大きな収入源だった手術ができなくなり、去年の赤字額は4億7000万円だった。全国の病院の経営状況を示すデータによると7割が赤字で、医師不足でも新たに獲得するのが難しい状況は全国に広がっていた。3月31日、全体の1割にあたる15人の看護師が一斉に退職することになった。