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行き過ぎた医師の偏在によって、地域の中核病院ではミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるをえないほど追い詰められていた。長年指摘されてきた問題のツケが患者を直撃していた。
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オープニング映像。
医療の質が維持できなくなる実態を知ってほしいと、島根にある済生会江津総合病院医局長の佐々木さんが取材に応じた。患者数年間4万7000人、19の診療科と240床のベッドを持つ地域の中核病院だが、一部の医師が起こす事故やトラブルに頭を悩ませていた。医師による注射針の使い回しの報告もあり、感染はなかったが病院は検査や患者への謝罪などの対応に追われた。医師の高齢化が進む中で、不注意によるミスも相次いでいる。取材中に高齢男性が救急車で搬送されてきたが、付き添いの妻は医師によっては診療に問題があると感じていたためこの病院に来たくなかったという。最大の理由は医師の大幅な減少で、かつて28人いた常勤医が12人にまで減っていた。中津院長は、昔からトラブルを起こす人はいたがみんなでカバーしていた、人が少なくなると1人1人の力量が確認されてしまう、大学も医者がいないので派遣する余力はないと話した。
医師の確保が難しくなったきっかけは、2004年に始まった新臨床研修制度。それまでは大学病院から医師が派遣されていたが、医師の選択の幅を広げる制度が新たに導入され、研修医が大学病院だけでなく都市部の民間病院などを自由に選べるようになった。その結果、勤務が過酷とされる地方の病院では十分な数の医師を確保するのが難しくなった。2008年に国が政策を打ち出し医師の数は5万人以上増えたが、問題は解消していない。増えた若い世代の医師は大都市やその周辺に集中し、大都市圏を除く広い範囲では医師の数が減っていた。江津総合病院で最も危機的なのが救急医療。入院が必要な患者を受け入れる2次救急を担っているが、救急を担えなくなれば地域医療が立ち行かなくなる。病院では、以前の半分以下となった医師を総動員して救急医療を守ってきた。
佐々木さんたちは、救急を担う医師を新たに確保するための働きかけをしていた。皮膚科の常勤医として採用することになった医師との面談では、病院の実情を説明しできる範囲で救急に対応してほしいと伝えた。救急を担える医師が限られる中、負担は若手に集中していた。循環器内科の常勤医として働く30代の山口さんは、前日の夜から救急対応にあたったあとそのまま勤務を続けていた。一定期間地域医療に携わる制度を使って働いてきたが、ここで専門性を磨くのは難しいと考え、山口さんはこの春に家族が待つ松江市に病院に移ることを決めた。看護師の池内さんは、神経の難病で意思表示が難しい患者の喉に、医師が器具を交換した際にできたとみられる内出血を見つけた。池内さん、これっておかしいだろっていうのはきちんと言わないと本当に安全な医療を提供できる病院にはならないと話した。
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2月、看護師たちは院長に直接危機感を訴えた。院長は、フォローするのが難しいと訴えがあった一部の医師に救急医療から外れてもらうことを決めた。人手が足りない中で新たな欠員が生じることになり、佐々木さんがカバーに入った。佐々木さんは3年前に大学病院からこの病院に赴任し、故郷の地域医療に貢献したいと家族で移り住んだ。中学校の社会科見学で済生会江津総合病院を訪れたことがきっかけで医師を志したが、15年ぶりに見た病院は様変わりしていた。佐々木さんは過酷な勤務を続けるうちに、目指していた患者本位の医療が難しくなってきていると感じていた。病院ではこれまで非常勤の医師を雇うことで19の診療科を維持してきたが、物価や人件費の高騰による経営の悪化で限界が生じていた。2年前に常勤の外科医がいなくなったため大きな収入源だった手術ができなくなり、去年の赤字額は4億7000万円だった。全国の病院の経営状況を示すデータによると7割が赤字で、医師不足でも新たに獲得するのが難しい状況は全国に広がっていた。3月31日、全体の1割にあたる15人の看護師が一斉に退職することになった。
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医療の質の低下を訴える声は都市部からもあがっていた。総合病院の元看護師の女性は、看護師としてのプライドにふたをして流れてくる患者に対応していたと語った。女性は、1人でも多くの患者を集めようとする病院の方針に問題があると指摘。医師が対応できる患者の数を超えて受け入れることで、長時間待たされる患者も少なくなかったという。その病院に母親が脳梗塞で入院していたという女性にも話を聞いた。当初は食事も会話もできていたが、3日後には話すこともままならなくなり、医師に説明を求めても忙しいと会ってもらえなかった。不信感が募り別の病院に転院したところ、新型コロナに感染し誤嚥性肺炎も起こしていると告げられた。取材で入手した病院の内部資料では、とにかく収益を重視するという方針が示されていた。手術を倍増させるという計画を示し、診療科ごとに目標件数を課していた。病院関係者は、この20年大きく増えるのなかった診療報酬が背景にあると指摘。物価や人件費の高騰の影響は都市部の大規模病院ほど大きく、赤字は全国平均の1.6倍になっている。全日本病院協会の猪口会長は、ここ数年いきなり物価や人件費が上がり私の知っている限り黒字の病院はない、住民も減っているのに多くの科を残して運営しようとしてもできない、他の病院との連携でどういう医療をやっていくかと考えざるをえないと話した。
専門家と議論を重ねた結果、済生会江津総合病院はベッド数を一気に30近く減らした。病院の規模を計画的に縮小し19の診療科の削減に取り組む方針で、一部の専門的な治療は隣の市にある3次救急の病院に委ねる。その代わり、様々な症状を総合診療に診て初期対応にあたる総合診療に力を入れることにした。救急医療を立て直し、受け入れを停止していた小児救急を再開したいと考えている。厚生労働省の担当者は、これまでの国の対策の限界を認めたうえで地域ごとに適切な医療体制を整えるよう求めている。地域医療計画課の中田課長は、医師数を増やせば地域偏在の解決につながるという考えのもと地域枠などの医学部の定員を増やしてきたが今後はそれだけでは偏在に追いつかない、医療資源を集約化して体制を立てて行く必要があると話した。医療事故で長女を亡くしたことをきっかけに協議会のメンバーとして患者の目線から国に提言をしてきた勝村さんは、厚生労働省が自分たちの利害調整をしたり医師たちの自由や収益向上が目標になってしまうと、患者のグランドデザインの責任をとるのは後回しになってしまう、誰かがすべて担わされるのではなくみんなで担っていくことがグランドデザインを考える根本だと指摘した。4月、済生会江津総合病院では新たに3人の総合診療医が加わった。
エンディング映像。
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